惘然ばうぜん)” の例文
かれにはには節制だらしのないさわぎのこゑみゝ支配しはいするよりもとほかつはるかやみ何物なにものをかさがさうとしつゝあるやうにたゞ惘然ばうぜんとしてるのであつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
谷間の途極ゆきとまりにてかめに落たるねずみのごとくいかんともせんすべなく惘然ばうぜんとしてむねせまり、いかゞせんといふ思案しあんさヘ出ざりき。
五六の人が惘然ばうぜんとそれを眺め入つて居る所も、油繪のやうには見えないで、却つて古い縁起ものの繪卷物の一部を仕切つたやうに見えるのである。
京阪聞見録 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
私は此内面の争闘をけみした後に、しばらくは惘然ばうぜんとしてゐたが、思量の均衡がやうやう恢復くわいふくせられると共に、従来回抱してゐた雪冤せつゑんの積極手段が、全く面目を改めて意識に上つて来た。
津下四郎左衛門 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
宗助そうすけはたゞ惘然ばうぜんとした。自己じこ根氣こんき精力せいりよくらないこと齒掻はがゆおもうへに、夫程それほど歳月さいげつけなければ成就じやうじゆ出來できないものなら、自分じぶんなにしにこのやまなかまでつてたか、それからがだい一の矛盾むじゆんであつた。
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
だよう、おとつゝあになぐられつから、おとつゝあ勘辨かんべんしてくろよう」と歔欷すゝりなくやうな假聲こわいろさらきこえた。惘然ばうぜんとしてすべてがどよめいた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
惘然ばうぜんと不可思議の眼をみはつて、かの未だ知らざる情緒海のあなたを眺め入るやうに見えた。
京阪聞見録 (旧字旧仮名) / 木下杢太郎(著)
惘然ばうぜんとして自失じしつして卯平うへいわらびた。かれあわてゝ戸口とぐちしたときすであか天井てんじやうつくつてた。けぶりは四はうからのきつたひてむく/\とはしつてた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)