差図さしず)” の例文
旧字:差圖
白河戸郷の味方の者と思い、それで某お敵対をいたし、丹生川平の人々へも、宮川氏を討ち取るよう、差図さしずをいたした次第でござる。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「そう仰っしゃれば、いつかお屋敷へ見えたことのある京極家の指南番大月玄蕃おおつきげんばが物蔭からしきりと差図さしず致していたようでござりました」
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中元の進物の差図さしずをする。——その合間には、じれったそうな顔をして、帳場格子の上にある時計の針ばかり気にしていました。
妖婆 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
今度は以前のように下絵などの面倒なこともありませんので、師匠の差図さしずと自分の考案で、童女の方は十か十一位、桃割ももわれに結って三枚がさね。
番人に差図さしずして之を開かせ其内に踏み入るに是が牢屋の入口なる可く左右に広き室ありて室には幾人の巡査集れるを見る
血の文字 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
最後に自分は俥の上で、こう駆けてばかりいては肝心かんじんの話ができないと気がついて、車夫にどこかゆっくりすわって話のできる所へ連れて行けと差図さしずした。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
壮士は、立ってその棒をさげて来た——これは力士小野川が水戸烈公の差図さしずにより、次第によらば攘夷じょういのさきがけのためとて、弟子どもに持たせた樫の角棒。
奥様の御差図さしずで、葡萄酒を胡燵おこたの側に運びまして、玻璃盞コップがわりには京焼の茶呑茶椀ぢゃわんを上げました。静な上に暖で、それはだまされたような、夢心地のする陽気。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
是れから物頭ものがしらがまいりまして、段々下話したばなしをいたし、權六は着慣れもいたさん麻上下あさがみしもを着て、紋附とは云え木綿もので、差図さしずに任せお次までまかで控えて居ります。
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
人の差図さしずを受けようとも思わず、人間万事天運に在りと覚悟して、つとめることはくまでも根気つとめて、種々様々の方便をめぐらし、交際を広くして愛憎の念を絶ち
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
横の板張に親椀おやわんを並べて拭いていたオモヨさんに眼顔で、差図さしずをしますと、オモヨさんは大勢に見られながら、恥かしそうに立上って、若旦那の後から鉄瓶をげて、離家の方へ行きました。
ドグラ・マグラ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
やはり伊勢殿のお差図さしずで、いま西の陣一方の旗がしら、左兵衛佐さひょうえのすけ殿(斯波義廉よしかど)が渋川家より入って嗣がれましたが、右兵衛さまとしてみれば御家督に未練もあり意地もおありのことは理の当然
雪の宿り (新字新仮名) / 神西清(著)
他人の差図さしずやお世話にはなりたくないと思っていたらしかったのですね
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
広き都に置きかね漂泊ただよいあるきの渡り大工、段々と美濃路みのじ信濃しなのきたり、折しも須原すはらの長者何がしの隠居所作る手伝い柱を削れ羽目板をつけろと棟梁とうりょう差図さしずには従えど、墨縄すみなわすぐなにはならわぬ横道おうどう
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
皆きれいな公子たちであるが、その中にも源中将は最もすぐれた美貌びぼうを持っていた。気高けだかい貴人らしいところがことに目にたった。内大臣は若いおいのために座敷の中の差図さしずなどをこまごまとしていた。
源氏物語:33 藤のうら葉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
まだとしも若し、気もさかんであるから、高い足場へ上って、差図さしずをしたり、竹と丸太を色々に用いてあごなどの丸味や、胸などのふくらみを拵えておりますと
「もし台が狭かったら、おれだけは別にぜんにしてもいぜ」と主人役の岸本は一寸ちょっとそこへ差図さしずしに行った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
枕もとに独り坐っていた父はあごで彼に差図さしずをした。彼はその差図通り、すぐに母の鼻の先へ坐った。
お律と子等と (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
万のは差図さしずをするような言いぶりでありました。お玉は差図をされた通りに通り抜けて石燈籠の蔭から中庭の方へ参りますと、中からまた一人の仲居が木戸をあけてくれる。
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
やはり伊勢殿のお差図さしずで、いま西の陣一方の旗がしら、左兵衛佐さひょうえのすけ殿(斯波義廉よしかど)が渋川家より入つて嗣がれましたが、右兵衛さまとしてみれば御家督に未練もあり意地もおありのことは理の当然
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
勝麟太郎かつりんたろうと云う人は艦長木村の次に居て指揮官であるが、至極しごく船に弱い人で、航海中は病人同様、自分の部屋の外に出ることは出来なかったが、着港になれば指揮官の職として万端ばんたん差図さしずする中に
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
何卒どうぞお前が差図さしずして帰しておくんなさいましよ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
差図さしずのようなことやお手伝いのようなことをしていますと、お女中がお膳部ぜんぶを次の間まで持って行った時、そこの御主人が、まだ座敷へ出してはいかぬ、そこへ置けと女中たちに言いつけて
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
差図さしずを致しますから
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「それはこの甲府のお城を預かって、勤番のお侍をお差図さしずなさるお方」
あごで馬子に差図さしずして静かに馬を打たせようとする。
「どこへ行きましょうとお差図さしずは受けませぬ」
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)