山越やまごえ)” の例文
滝見屋たきみやというところで、はらをこしらえ、弁当を用意し、先達せんだつを雇っていよいよ出発したが、この山越やまごえは僕には非常に難儀なものであった。
遍路 (新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
わたしが今話の序開じょびらきをしたその飛騨の山越やまごえをやった時の、ふもとの茶屋で一緒いっしょになった富山とやまの売薬というやつあ、けたいの悪い、ねじねじしたいや壮佼わかいもので。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
とさも無雑作むぞうさに云っちまった。ちょうど炭屋が土釜どがまを台所へかつぎ込んだ時のように思われた。人間が遥々はるばる山越やまごえをして坑夫になりに来たんだとは認めていない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これしよくはありませんが薬屋くすりやの息子でございますから、くま膏薬かうやくることを知つてりますから、膏薬かうやくこしらへて山越やまごえをしてあつち此方こつちつてゐるのでございます。
山越やまごえよ五浦少女、日中ひなかより影をつづりて、もてなしと我にまゐると、とと、瓶子かかへ、五器そろへ、お膳持て来る。一閑張・筆・墨・硯、さて紙帳、くくり枕や、夜のものとふすま持てる。
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
わしいまはなし序開じよびらきをした飛騨ひだ山越やまごえつたときの、ふもと茶屋ちやゝで一しよになつた富山とやま売薬ばいやくといふやつあ、けたいのわるい、ねぢ/\したいや壮佼わかいもので。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
山越やまごえをなさったの先生が、茶店の婆さんにわざわざ御頼みになったそうで御座います」
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
んだ玉子酒たまござけをしてひやがつて、亭主ていしゆ山越やまごえをして方々はう/″\あきなひをしてゐるに、かゝアは玉子酒たまござけをしてくらやアがる、まだあまつてゐるがんでやれ、オイだれだおくまか、どこへつたんだ。
近ごろある人に聞く、福井より三里山越やまごえにて、杉谷という村は、山もて囲まれたる湿地にて、すげの産地なり。
遠野の奇聞 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
こんな動物といっしょに夜山越やまごえをしたとすると、誰だって物騒な気持になる。自分はこの時この小僧の事を今考えても、妙な感じが出て来る。さっき蝙蝠こうもりのようだと云ったが、全く蝙蝠だ。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そして、その時の絵のような美しさが、可懐なつかしさの余り、今度この山越やまごえを思い立って参ったんです。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わしは、山越やまごえ信州しんしうまゐりますものですが旅籠はたごのございますところまではくらゐございませう。)
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
元の巌殿いわど引返ひっかえして、山越やまごえ出奔しゅっぽんするぶんの事です。
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)