くい)” の例文
確められて文三急にしおれかけた……が、ふと気をかえて、「ヘ、ヘ、ヘ、御膳も召上らずに……今に鍋焼饂飩なべやきうどんでもくいたくなるだろう」
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
もう一度石にくいついても恢復なおって、生樹なまきを裂いた己へ面当つらあてに、早瀬と手を引いて復讐しかえしをして見せる元気は出せんか、意地は無いか。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ソレが喫べられなければ私の喫べ掛けを半分喫べなさい、毒はないじゃないかと云うようなことでこころみた所が、ソコでくい出した。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
元日にある人のもとゆきければ、くいつみをいだし、ことぶきをのべてのち、これを題にして、めでたく歌よめとはべりければ
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
累「はい今日こんにち兄が通り掛りまして、手前は憎い奴だが如何にも坊が憫然だ、蚊ッくいだらけになるから釣って遣ろうと申して家から取寄せて釣ってくれましたので」
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
校長は眼をつぶり歯をくいしばったままかしられ両のこぶしひざに乗せている。
富岡先生 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
くいかねぬむこしゅうとも口きいて 翁
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
くすりくいとなりの亭主箸持参
俳人蕪村 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
(あなたも。……口惜くやしい、)と恍惚うっとりして、枕にひしとくいつかしって、うむと云うが最期で、の、身二ツになりはならしったが、産声も聞えず、両方ともそれなりけり。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
花魁に聞かしいねえ、若旦那の飯のくいぷりが気に入っちまった、かれいのお肴か何かの時は其の許嫁のお嬢さんが綺麗に骨を取ってをむしって、若旦那私がむしって上げますと云って
大きな折烏帽子おりえぼしが、妙に小さく見えるほど、頭も顔も大の悪僧の、鼻がひらたく、口が、例のくいしばった可恐おそろしい、への字形でなく、唇を下から上へ、への字を反対にしゃくって
七宝の柱 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
確かり歯をくいしばって居りますから、自分に噛砕かみくだいて、ようやくに歯の間から薬を入れ、谷川の流れの水をすくって来て、口移しにして飲ませると薬が通った様子、親切に山之助がさすって遣りますと
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
近く寄れ、くいさきなむと思うのみ、歯がみしてにらまえたる、眼の色こそ怪しくなりたれ、さかつりたるまなじりきもののわざよとて、寄りたかりて口々にののしるぞ無念なりける。
竜潭譚 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
近く寄れ、くいさきなむと思ふのみ、歯がみしてにらまへたる、の色こそあやしくなりたれ、さかつりたるまなじりきもののわざよとて、寄りたかりて口々にののしるぞ無念なりける。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
一人いていた柿を引手繰ひったくる、と仕切にひじを立てて、あごを、新高しんたかに居るどこかの島田まげの上に突出して、丸噛まるかじりに、ぼりぼりとくいかきながら、(めちまえ、)と舞台へわめく。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(酒が飲めなきゃ飯を食ってもう帰れ、御苦労だった、今度ッからもっと上手にれよ。)と言われて、畳にくいついて泣いていると、(親がないんだわねえ、)と、勿体ねえ
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
大形の浴衣の諸膚脱もろはだぬぎで、投出なげだした、白い手の貴婦人の二の腕へ、しっくりくいついた若いもの、かねて聞いた、——これはその人の下宿へ出入りの八百屋だそうで、やっぱり情人の一人なんです。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)