叩頭じぎ)” の例文
だが、山よ、出来得べくはなるけ育てて呉れ。翁はこどもを山の方に捧げ、ひょこひょこひょこと三つお叩頭じぎをして、置いて帰った。
富士 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
森は二歩ふたあし三歩前へ進み、母を始め姉や娘に向ッて、慇懃いんぎんに挨拶をして、それから平蜘蛛ひらくものごとく叩頭じぎをしている勘左衛門に向い,
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
自分をお叩頭じぎさせたり押籠おしこめたり裸にしたり踏踣したり、また場合に依ツたらころしもすることの出來る力があるかも知れぬが、たゞ一ツ
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
「御心配をかけて、どうも済みません」お島はそう言ってお叩頭じぎをしようとしたが、筋肉が硬張こわばったようで首も下らなかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
唯今ただいま御前ごぜんのおおせに、恐入ったていして、肩からずり下って、背中でお叩頭じぎをして、ポンと浮上ったように顔をもたげて、鼻をひこひことった。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
圭一郎は丁寧にお叩頭じぎして座を退り齒のすり減つた日和ひよりをつつかけると、もう一度お叩頭をしようと振り返つたが、衝立ついたてに隱れて主人の顏は見えなかつた。
業苦 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
「さようでございますか、どうもお邪魔いたしました」と、小平太はお叩頭じぎをして、そのまま表へ出た。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
東亜局長がドアに手をかけてひっぱろうとすると、扉はひとりでに開いて入口でばったり給仕ボーイにあった。彼は、あわててお叩頭じぎをして、盆に乗せた名刺を差し出した。
鉄の規律 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
で、一寸お叩頭じぎをするなり、犬をつれていそぎ足に、その場をはなれた。犬は不埒ふらちにも自分が救世主ででもあるやうに慈悲深い眼つきをして牧師を見かへりながら去つた。
奧樣が起きて來る氣色がしたので、大急ぎに蒲團を押入に入れ、しきりの障子をあけると、『早いね。』と奧樣が聲をかけた。お定は臺所の板の間に膝をついてお叩頭じぎをした。
天鵞絨 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
ブルジョア新聞さ、俺の自動車の前でお婆さんがお叩頭じぎしちゃったんだ、金持のご隠居だ相だが嫌になっちゃったよ。今度の争議の計画で会社側に睨まれてる最中だろう、いい解雇の口実を
歩む (新字新仮名) / 戸田豊子(著)
番頭が上り口へ手を突いて、お叩頭じぎをした。
三人の相馬大作 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
家霊は言ってるのだ——わたくしをしわたくしの望む程度まで表現して下さったなら、わたくしは三つ指突いてあなた方にお叩頭じぎします。
雛妓 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
そこへ小さな縁台を据えて、二人の中に、ちょんぼりとした円髷まるまげ俯向うつむけに、揉手もみてでお叩頭じぎをする古女房が一人居た。
陽炎座 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
時々白い砂の捲き上る道の傍には、人の姿を見てお叩頭じぎをしている物貰いなどが見えはじめて、おまいりをする人の姿がほかの道からもちらほら寄って来た。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
私はたゞもう、わな/\ふるへながら、はあ、はあ、と頷いて聞き終ると一つお叩頭じぎをして引き退つた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
渡守せんどうはわれわれの姿を見るといきなり小屋から飛び出して、二ツ三ツ叩頭じぎをしてそして舟を出した。
初恋 (新字新仮名) / 矢崎嵯峨の舎(著)
叩頭じぎをしいしい、わざとゆっくり足を運んで、遠目に玄関口をのぞいてみると、正面に舞楽ぶがくの絵をかいた大きな衝立ついたてが立ててあるばかりで、ひっそり閑としずまり返っていた。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
近子は輕くお叩頭じぎをして、「うも御親切に有難うございます。」と叮嚀ていねいツたかと思ふと、「ですが、其樣そんなにおひやらないで下さいまし。幾ら道具でも蟲がありますからね。」
青い顔 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
やっとのことで労働者は二人に恐縮そうにお叩頭じぎして出ていった。
頭と足 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
「ああ」とも子はお叩頭じぎして、「兄はぐっすり眠ってますよ」
歩む (新字新仮名) / 戸田豊子(著)
お定は台所の板の間に膝をついてお叩頭じぎをした。
天鵞絨 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
吉右衛門は、丁寧に答えて、お叩頭じぎをした。
寺坂吉右衛門の逃亡 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
ひょんな顔をしておきみがお叩頭じぎをする度びに揺れて上下する赤い手絡の丸髷を船ぼんぼりのほのかな光の中で不思議そうに見詰めるのでした。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
家へ入っても、いつものように父親の前へ出て謝罪あやまったり、お叩頭じぎをしたりする気になれなかったお島は、自分の部屋へ入ると、急いで寝支度に取かかった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
私はお叩頭じぎひとつして默つて退いた。C雜誌の若い記者が、この角を曲るとめそ/\泣けて來ると言つたその杉籬すぎがきに添つた曲り角まで來ると、私も思はず不覺の涙をこぼした。
足相撲 (旧字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
下廊下を、元気よく玄関へ出ると、女連の手は早い、二人で歩行板あゆみいたと渡って、自分たちで下駄を揃えたから、番頭は吃驚びっくりして、長靴をつかんだなりで、金歯を剥出むきだしに、世辞笑いで、お叩頭じぎをした。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そしてどうかしてこの盲人の不逞ふていなものを取り挫いて、心から自分に向ってお叩頭じぎをさせたい願望に充たされるのであった。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
虫を殺してそれだけ言ってお叩頭じぎをしたきりであったが、おとらが、さも自分が後悔してでもいるかのような取做方とりなしかたをするのを聞くと、急に厭気がさして、かっと目がくらむようであった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
今度は双方でほゝゑみを交はしてお叩頭じぎをした。「何ゆゑ、わたしを貰つて下さいませんでした?」といふ風の眼で面窶おもやつれた弱々しい顔をいくらか紅潮させて私を視た。行き違ふと私は又俯向いた。
途上 (新字旧仮名) / 嘉村礒多(著)
えらい、」とつて、お叩頭じぎをして
鑑定 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
わたしはこんなに生れてから重荷をおろした気持のしたことはない。おれは君にこのようにお叩頭じぎをしてから、何でもおごるよ
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
青柳はきまりの悪そうな顔をして、お叩頭じぎをした。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
亀田はすっかり恐縮して、お叩頭じぎばかりしながら鉄斎と縁の端にかたくなって腰掛ける。二人はしばらく手持ち無沙汰の様子。蓮月はまた工作にもどる。
ある日の蓮月尼 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それは素早く軽い手つきであったが、私をぎょっとさせた。娘も、それにつれて、しおれたままお叩頭じぎした。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
あたしは、つい、有難うございますとお叩頭じぎして指図通り、顔を直しに行っただけですけれど、全く
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
わたしの女学生風のお叩頭じぎに対し、尊大に「アン」と反り返って返事をし、それからわたしにはばかって、わざともつれまぎらかした声を、金歯の閃く筒のような口から出した。
美少年 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
子供は自分の畸形きけいな性質から、いずれは犯すであろうと予感した罪悪を、犯したような気がした。わるい。母に手をつかせ、お叩頭じぎをさせてしまったのだ。顔がかっとなって体に慄えが来た。
(新字新仮名) / 岡本かの子(著)
私は小学生が復習の日課を許して貰ったように、お叩頭じぎをして、つい
扉の彼方へ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
「腰かけたまわりには、さっき上げといた蚤取粉のみとりこくんですよ。そうしないと虫に食われますよ」見送りの事務員のいたわった声が桟橋から響いた。娘はポケットを押えてみて、窓からお叩頭じぎをした。
河明り (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
よくお叩頭じぎしてお礼を言いなさいよ。
豆腐買い (新字新仮名) / 岡本かの子(著)