半纏着はんてんぎ)” の例文
なだれに帯板へ下りようとする角の処で、頬被ほおかぶりした半纏着はんてんぎが一人、右側のひさしが下った小家の軒下暗い中から、ひたひたと草履で出た。
菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「何を二人で感心しておるのだ。口の利きようでみると、その半纏着はんてんぎのやつは、武士のようだが——」
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
樹木の茂った丘の崖下の低地の池のまわりには、今日も常連らしい半纏着はんてんぎの男や、親方らしい年輩の男や、番頭らしい男やが五六人、釣竿を側にして板の台に坐って、浮木うきを眺めている。
遁走 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
途端に引込ひっこめた、年紀としの若い半纏着はんてんぎの手ッ首を、即座の冷汗と取って置きの膏汗あぶらあせで、ぬらめいた手で、夢中にしっかと引掴ひッつかんだ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
前垂まへだれがけの半纏着はんてんぎ跣足はだし駒下駄こまげた穿かむとして、階下かいかについ下足番げそくばん親仁おやぢのびをするに、一寸ちよつとにぎらせく。親仁おやぢ高々たか/″\押戴おしいたゞき、毎度まいどうも、といふ。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「今晩は、——饂飩六ツ急いでな。」と草履穿ぞうりばきの半纏着はんてんぎ、背中へ白く月を浴びて、赤い鼻をぬいと出す。
歌行灯 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
唐突だしぬけに云った。土方てい半纏着はんてんぎが一人、床几は奥にも空いたのに、婆さんの居る腰掛を小楯こだてしゃがんで、梨の皮をいていたのが、ぺろりと、白い横銜よこぐわえに声を掛ける。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それとも半纏着はんてんぎは看板に障るから上げねえ、とでもかして見ろ。河岸から鯨を背負しょって来て、てめえとこで泳がせるぞ、浜町界隈かいわい洪水だ。地震より恐怖おっかねえ、屋体骨やていぼねは浮上るぜ。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
半纏着はんてんぎは、みづあさいしおこして、山笹やまざさをひつたりはさんで、細流さいりう岩魚いはなあづけた。溌剌はつらつふのはこれであらう。みづ尾鰭をひれおよがせていははしる。そのまゝ、すぼりと裸體はだかつた。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さかしたは、左右さいう植木屋うゑきや屋外をくぐわい足場あしばまうけ、半纏着はんてんぎ若衆わかもの蛛手くもでからんで、造菊つくりぎく支度最中したくさいちうなりけり。く/\フと古道具屋ふるだうぐやまへつ。彌次やじいはく、茶棚ちやだなはあんなのがいな。
弥次行 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
爪弾つまびきを遣る、洗髪あらいがみの意気な半纏着はんてんぎで、晩方からふいとうちを出ては帰らないという風。
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そのかわり、町の出はずれを国道へついて左へ折曲ろうとする角家の小店こみせの前に、雑貨らしい箱車を置いて休んでいた、半纏着はんてんぎの若い男は、軒の藤をくぐりながら、向うから声を掛けた。
半島一奇抄 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と頬かむりを取った顔は……礼之進に捕まった、電車の中の、その半纏着はんてんぎ
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)