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十年
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じふねん
親と
親との
許嫁でも、
十年近く
雙方不沙汰と
成ると、
一寸樣子が
分り
兼る。
況や
叔父と
甥とで
腰掛けた
團子屋であるから、
本郷に
住んで
藤村の
買物をするやうな
譯にはゆかぬ。
女は
氣の
狹いもの、
待つと
成つては
一時も
十年のやうに
思はれるであらうを、お
前の
懈りを
私の
故に
取られて
恨まれても
徳の
行かぬ
事、
夜は
格別の
用も
無し、
早く
行つて
聽いて
遣るがよからう
その
叔父は
十年ばかり
前、七十一で
故人になつたが、
尚ほその
以前……
米が
兩に
六升でさへ、
世の
中が
騷がしいと
言つた、
諸物價の
安い
時、
月末、
豆府屋の
拂が
七圓を
越した。
私は
上手の
名曲を
聞いたと
同じに、
十年、
十五年の
今も
忘れないからである。
「むき
蟹。」「
殼附。」などと
銀座のはち
卷で
旨がる
處か、ヤタ
一でも
越前蟹(
大蟹)を
誂へる……わづか
十年ばかり
前までは、
曾席の
膳に
恭しく
袴つきで
罷出たのを、
今から
見れば、
嘘のやうだ。