傾向けいこう)” の例文
木戸銭きどせんをだしていない大道芸だいどうげいのせいでもあろうが、とかく人間は、かれの成功せいこうよりもかれの失敗しっぱいをよろこぶ傾向けいこうをたぶんにもっている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
でも、この赤人あかひとといふひとは、かういふ傾向けいこう景色けしきうたひてをくして、だん/\自分じぶんすゝむべき領分りようぶん見出みいだしてきました。
歌の話 (旧字旧仮名) / 折口信夫(著)
かたや胸の歯形をたのしむようなマゾヒズムの傾向けいこうもあった。かべ一重の隣家をはばかって、蹴上けあげの旅館へ寺田を連れて行ったりした。
競馬 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
しかし、これが元来空想的な傾向けいこうつシャクに、自己の想像をもって自分以外のものに乗り移ることの面白さを教えた。
狐憑 (新字新仮名) / 中島敦(著)
強権的な鍛練たんれん主義一点ばりの傾向けいこうにあるのを深くうれえていた際だったので、すぐそれを自分の新しい構想に基づく青年塾に利用したいと考えた。
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
にくらしくても、反感はんかんは抱いていても、人間には、強い颯爽さっそうたるものを無条件に讃美し、敬慕する傾向けいこうがあります。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
わたくし貴方あなたすべてを綜合そうごうする傾向けいこうをもっているのを、面白おもしろかんじかつ敬服けいふくいたしたのです、また貴方あなたいまべられたわたくし人物評じんぶつひょうは、ただ感心かんしんするほかはありません。
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
七、八年ならんといったが、いかにも今日まで五ヵ年になるが、彼のいったごとき傾向けいこうが現れんとしつつある
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
しかし自分がそれだけの個性を尊重し得るように、社会から許されるならば、他人に対してもその個性を認めて、彼らの傾向けいこうを尊重するのが理の当然になって来るでしょう。
私の個人主義 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すなわち肉類や乳汁を、あんまりたくさんたべると、リウマチスや痛風や、悪性の腫脹しゅちょうや、いろいろいけない結果が起るから、その病気のいやなもの、またその病気の傾向けいこうのあるものは
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
安斉あんざい先生は旧藩きゅうはん時代の面影おもかげを顔のあばたに伝えている。まばらなひげが白い。その昔剣道できたえたと見えて、目がすこしやぶ傾向けいこうをおびている。にらみがきく。ナカナカこわい。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
このスエーデンの北方博物館ほつぽうはくぶつかんとまつたくおなじような博物館はくぶつかんさらきたくに、ノールウエのオスロにもありますし、近頃ちかごろこのしゆ博物館はくぶつかん各國かつこくまうけられて傾向けいこうになつてをります。
博物館 (旧字旧仮名) / 浜田青陵(著)
彼に対してのみその傾向けいこうが極端になって行ったのである彼女が佐助を最も便利に思った理由もここにあるのであり佐助もまたそれを苦役と感ぜずむしろ喜んだのであった彼女の特別な意地悪さを
春琴抄 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
とりわけ斎藤実さいとうまこと高橋是清たかはしこれきよといったような、ながく国民に敬愛されていた人たちの遭難そうなん詳報しょうほうは、田川大作のような右翼的うよくてき傾向けいこうの強い塾生たちにも
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
この傾向けいこうは決してひとり婦人子供のみに限らない。大人おとなにもあり、しかも学者または識者しきしゃにもあることである。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
この種の美しさは、この国の人々の間に在っては余りにもまれなので、子路のこの傾向けいこうは、孔子以外の誰からも徳としては認められない。むしろ一種の不可解なおろかさとして映るに過ぎないのである。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
しかし、直吉の顔は、がんとして南の方を向いたきりで、どうにもならなかった。どうにもならないどころか、直吉の足は、かえってそのために、一層速くなる傾向けいこうさえあった。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「時局がら、うれうべき傾向けいこうだ。査問会さもんかいをひらいたら、どうだい。」
次郎物語:05 第五部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)