傴僂せむし)” の例文
生まれや地位にごまかされることのないエリザベスの鋭い目も、この小さな傴僂せむしが偉大な才能を持つことを見のがしはしなかった。
やはり私の想像通りに傴僂せむしの川村書記さんと、好男子殿宮視学さんに違いない事がわかりました時の私の喜びはどんなでしたろう。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「飛んだ傴僂せむしさ。行つて聞いて見るがいゝ、銀町しろがねちやうにはそんな者は一人もないに相違ないから、——町内の人はみんなスラリとして居るぜ」
私達の仲間にピトンという傴僂せむしの若者がありましたが、ムリオに買収されたと見えて、或晩町の料理屋へ私を誘って行きました。
西班牙の恋 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
しかし、その像には依然として変りはなく、扁平な大きな頭を持った傴僂せむしが、細く下った眼尻にずるそうな笑を湛えているにすぎなかった。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そして年か衰弱のせいのように傴僂せむしになっていて、頭巾ずきん附の大きな古びたぼろぼろの水夫マントを着ているので、実に不恰好ぶかっこうな姿に見えた。
傴僂せむしの料理女がふかの臭をさして食卓の用意が整ったことを知らせた。彼女は昨夜からの涙の滲んだ絹のハンカチを香港の朝の風景に飜えして
地図に出てくる男女 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
人間性をそのように畸型な傴僂せむしにした権力は、よしんば急に崩壊したとしても、けっしてそれと同じ急テンポで、人間性に加えられた抑圧の痕跡
現代の主題 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
傴僂せむしのように尖った老僧のせなは後ろを向けたままで、カチ、カチ、と土へ鍬を入れている調子に少しも変りはなかった。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
文字の精は、また、彼の脊骨せぼねをもむしばみ、彼は、へそに顎のくっつきそうな傴僂せむしである。しかし、彼は、おそらく自分が傴僂であることを知らないであろう。
文字禍 (新字新仮名) / 中島敦(著)
八百助は彼らのひとり息子であるが、なんとしたことか生まれながらのちんばで、二つの年に片眼をつぶし、五歳の秋から傴僂せむしになった。母親はつねに嘆いて
傴僂せむしの道化者汪克児オングルは、葉のついた木の枝を剣に見立てて、身振りおかしく独りでふざけ廻っている。
飛仙となつて、羽ばたきの音けたたましく大空をけめぐるべきはずだつた馬明生の体は、見る見るうちに傴僂せむしのやうに折れ曲つて、やがて小さな地仙となつてしまつた。
春の賦 (新字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
そのうちに、傴僂せむしのやうな小使が朝の時間を知らせる鐘を振つて、大急ぎで玄関を通りすぎた。
あの頃の自分の事 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
何程与えたらいいかと考えてると、闇の中から傴僂せむしの乞食が出て来て、両方の膝頭に、掌のような形をした足枷を投げかけた。それが膝頭にぴったり吸いついて、歩けなくなった。
反抗 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
ヂューヂャの二番目の息子は傴僂せむしのアリョーシカで、親父の家に暮らしている。つい此の間、或る貧乏な家からヷルヷーラという嫁を貰った。これは若い器量好しで、健康でお洒落しゃれが好きである。
女房ども (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
傴僂せむしのように体を屈めてむやみにお辞儀をする者が家の中に一ぱいになった。参朝すると六卿がうやまいあわてて、はきものをあべこべに穿いて出て迎えた。侍郎じろうの人達とはちょっと挨拶して話をした。
続黄梁 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
………ぶくぶくと綿の這入った汚れた木綿の二子ふたこの上に、ぼろぼろになった藍微塵あいみじんのちゃんちゃんを着ているお母さんの背中は、一生懸命に火を吹いているせいか、傴僂せむしのように円くなっている。
母を恋うる記 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そして妻の眼をつぶっている間中落ち付かぬ気持で前に廻り背後に廻りつ、私は跛の足を引き摺りながら妻の返事を待って、ノートルダムの傴僂せむしのように部屋の中じゅうい廻っていたのであった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
それは傴僂せむしのマンドリン
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
風や水が何万年か経って岩石に巨人像を刻み込むように、この像にも鎖されていた三年のうちに、傴僂せむしなおしてしまったものがあったのだ。
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「えい!」と云う裂帛れっぱくの声、紋太夫の口からほとばしると見るや、傴僂せむしの老人の小さい体は、幾十丈幾百丈、底の知れない穴の中へもんどり打って蹴落とされた。
マルクープと呼ばれた其の老人は幾分傴僂せむしらしく、何時も前屈みになって乾いたせきをしながら歩いていた。
南島譚:03 雞 (新字新仮名) / 中島敦(著)
「十四歳から道場へ来ておるのだから十三年目の免許皆伝だ。十三年もやれば、傴僂せむしだって、皆伝になる」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それ、親分だつて驚くでせう、あの右の足が二三寸短かい大跛者おほちんばの、しみつ垂れの傴僂せむしが——」
掃除に行きし小使に発見されて、一同を狼狽ろうばいさせおるうち、同じく開校準備のため出勤しおりし同校書記にして、森栖校長と共に三十年来、同校の名物となりおりし傴僂せむし
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「へえ。ようがすとも!——と言ったところで、なにしろとっさの出来事だったんで、どうもぼんやりしたお話で困りやすが、なんですよ親分さん、影はね、傴僂せむしのようでしたよ。」
釘抜藤吉捕物覚書:11 影人形 (新字新仮名) / 林不忘(著)
傴僂せむしでめっかちでちんば、一年まえこの村から煙のように消えた玉造の八百助である。
「それだから君は、僕が先刻さっき傴僂せむしなおっていると云ったら、わらったのだよ。自然がどうして、人間の眼に止まる所になんぞ、跡を残して置くもんか」
黒死館殺人事件 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
「もうわたしは歩けない! もう妾は一足も出ぬ! それにお前は傴僂せむしで片輪! 硫黄ヶ滝まではまだ遠い!」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
傴僂せむしのやうに思ひますが、別に不具かたはな樣子はなく、竹のやうに長くて武骨な手足、白痴はくちのやうに陰氣で無表情な顏、油つ氣のないまげ、何處から見ても、お舟と一緒に置いて
私が大切な瞑想めいそうの道場としている事を夢にも御存じない校長先生と、傴僂せむしの老人の川村書記さんとは、いつも学期末の近付いた放課後になると、職員便所の横のカンナの葉蔭から
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
大きな髷に結って、傴僂せむしのようだったとも言っている。
釘抜藤吉捕物覚書:11 影人形 (新字新仮名) / 林不忘(著)
と、傴僂せむしのような背中を見せて、挨拶していた。
魚紋 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すると遥かの奥の方から「オー」と返辞いらえる声がしたが、それから小刻みの足音がして、やがて一人の小男が手燭を捧げて現われた。小気味の悪い傴僂せむし男である。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「ね、親分。石井一家のうちから傴僂せむしを探しアわけはねえ、行つて當つて見ませうか」
汪克児オングル 傴僂せむしの道化役、成吉思汗ジンギスカン愛玩ペット 三十歳位
傴僂せむし隠亡おんぼうが居る。
書けない探偵小説 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そこには傴僂せむしの老人が、地面を蜘蛛くものように這いながら何か独言ひとりごとを云っている。髪は乱れて肩に懸かり陽に焼けた顔は眼ばかり白く、手足は枝のように痩せ枯れている。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
なか/\のお世辭ですが、眇目めつかちで、跛足びつこで少し傴僂せむしで、まことに見る影もありません。
一人の男は跛者びっこと見えて、ひどく左手へ傾いている。もう一人の男は傴僂せむしと見え、顔が地面へ垂れ下がっている。距離がへだっているために、顔ははっきり解らなかった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
天保元年正月五日、場所は浅草、日は午後ひるさがり、人の出盛る時刻であった。大道手品師の鬼小僧、傴僂せむしで片眼で無類の醜男ぶおとこ、一見すると五十歳ぐらい、その実年は二十歳はたちなのであった。
柳営秘録かつえ蔵 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と、すぐ扉がひらかれて、つつましく姿を現わしたのは、醜い傴僂せむしの小男であった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「片眼で傴僂せむしのこの俺を、馬鹿にしようって云うんだな。誰だと思う鬼小僧だ!」
柳営秘録かつえ蔵 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
近付くままによく見れば、肥えた傴僂せむし老人としよりが岩に一人腰掛けている。