かたわ)” の例文
大江山警部は、帆村の力を借りたい心と、まだ燃えのこる敵愾心てきがいしんとにはさまって、例の「ううむ」をうなった。そのときかたわらに声があった。
省線電車の射撃手 (新字新仮名) / 海野十三(著)
血塔と名をつけたのも無理はない。アーチの下に交番のような箱があって、そのかたわらに甲形かぶとがたの帽子をつけた兵隊が銃を突いて立っている。
倫敦塔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
願わくば、乱将義貞誅伐ちゅうばつの勅許をたまわりたい。つくすべき忠も、荼毒とどくの輩が君のかたわらにはびこっていたのでは捧げようもない。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
西欧の文学的潮流の移植のかたわらにあって、常に日本の近代性の中に含まれている非近代的なものの姿を我々に示して来ている。
今日の文学の鳥瞰図 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
そうして彼はその中で、テエブルの上にピンで留められてあった大西洋の地図の上にのめってい、そのかたわらには煙の出ているピストルを持った教師が立っていた。
かたわらに立って見るものは、その画家が何を描きつつあるのかわからない事さえありがちである。それ位いの程度において画家は自然の上に自分の心をおおかぶせている。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
土耳古トルコ語で「氷雪白き山岳の父」という意味だそうである、同氏はトランス・ヒマラヤを越えて、西方へ行き、ダングラユムツオ Dangrayumtsuo なる湖水のかたわらに
高山の雪 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
一天万乗ばんじょうの大君の、御座ぎょざかたわらにこの后がおわしましてこそ、日の本は天照大御神の末で、東海貴姫国とよばれ、八面玲瓏れいろう玉芙蓉峰ぎょくふようほうを持ち、桜咲く旭日あさひの煌く国とよぶにふさわしく
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
或日、老僕ろうぼく、先生の家に至りしに、二三の来客らいかくありて、座敷ざしきの真中に摺鉢すりばちいわしのぬたをり、かたわらに貧乏徳利びんぼうとくり二ツ三ツありたりとて、おおいにその真率しんそつに驚き、帰りて家人かじんげたることあり。
かたわらに引き添った一老人、すなわち薬草道人で腰ノビノビと身長せい高く、鳳眼鷲鼻白髯白髪、身には襤褸つづれを纒っているが、火光に映じて錦のようだ、白檀びゃくだんの杖を片手に突き、土を踏む足は跣足はだしである。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
それを見届けると、大蘆原軍医は始めて莞爾かんじと笑って、かたわらにりよってくる紅子の手をとって、入口のの方にむかって歩きだした。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その筋肉のあらあらした隆起りゅうきや青髯の痕にくらべて、かたわらから扇で風を送っている嫋女たおやめは余りに優雅みやびていた。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お召のかたわらにけばけばしい洋装がいるかと思えば、季節外れの衣裳を平気で身に附けている者がある。だから、京都は統一はあるが婦人の個性は失われている。
二つの型 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
私は、ホームズがしゃべりすぎていると云うことが分かったので、無味乾燥な新聞をかたわらにほうりなげて、椅子にうずまって黙想に耽った。と、ふいにホームズの声が、私の意識を呼びさました。
入院患者 (新字新仮名) / アーサー・コナン・ドイル(著)
帆村はかたわらの長椅子に身をもたせて、しばらく席が明くのを待っていなければならなかった。彼は見るともなしに、「例のお仲間」の方に顔を向けていた。
麻雀殺人事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
勝家は、寸間、馬をとめて、かたわらの者の手から、生涯の思い出多き——鬼柴田の名と共に今日まで陣営に掲げて来た——金箔捺きんぱくおしの御幣の馬簾ばれんを自身の手に取って
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こらえとおして来た悲しさと口惜しさとを一時に爆発させて、かたわらの硝子戸がビリビリ鳴り出したように思われるほど、大声を挙げて、泣いて泣いて泣きまくった。
仲々死なぬ彼奴 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そっと仰臥ぎょうがさせてもらい、かねて生前からととのえておいた具足櫃ぐそくびつの中の数珠じゅずと法衣を求めて、かたわらに置かせ、瞑目めいもく、ややしばらくであったが、やがて細目にあたりを見まわして
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼は時計がもう午前三時になっているのに気がつかないでかたわらの棚から手文庫を下ろした。その中には円い大きな凹面鏡おうめんきょうが、むきだしのまま入っているのである。
軍用鼠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
青谷技師はかたわらの鉄棒をとって、床の一部を圧した。すると板がクルリと開いて、床の下が見えてきた。床下には普通の洋風浴槽の二倍くらい大きい水槽が現れた。
人間灰 (新字新仮名) / 海野十三(著)
かたわらには小さな溝が、流れもしないドロンとした水をたたえている。それから太い大樹の無惨な焼け残りが、まるで陸に上った海坊主のような恰好をして突立っている。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
その男は、防毒マスクに気がついたのでもあろうか、かたわらを指さした。髯男が見ると、そこには、若い女が、彼女の子供でもあろうか、赤ン坊を、しっかり胸に抱いていた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
草津大尉は、かたわらの架台かだいから、拳銃の入ったサックを下ろして、胸に、斜に懸けた。それから、鉄冑てつかぶとを被り直すと、同室の僚友に、軽く会釈をし、静かにドアを開けて出て行った。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「馬鹿を言え、貴様から礼儀だの修身だのというものを聞こうとは思わんよ」と大口を開いて高らかに笑い、無遠慮にかたわらの安楽椅子を引きよせました。勝見は顔を曇らせて此の室を去りました。
赤耀館事件の真相 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「昨夜この男がデスナ」とかたわらの刑事が弁解らしく口をはさんだ。
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)