信州しんしゅう)” の例文
夏休みに信州しんしゅうの高原に来て試みに植物図鑑などと引き合わせながら素人流しろうとりゅうに草花の世界をのぞいて見ても、形態がほとんど同じであって
日本人の自然観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「お、家臣かしんの者ではないから、そちはまだ知らぬとみえる。かの信州しんしゅう上田城うえだじょうから質子ちしとしてきている真田昌幸さなだまさゆきのせがれ源次郎がことじゃ」
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
信州しんしゅうのある大名のお部屋様が、本町宿ほんちょうじゅく本陣ほんじん旅籠はたごにお泊りで、そこにもなんだか変な事があったそうで、それについては私はく存じませんがね
怪異暗闇祭 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
つぎに、信州しんしゅう木曾地にては管狐くだぎつねの住する家ありと申して、美濃の取りつき筋と同体異名である。しかも、その家には七十五匹住すと信じている。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
すずしいはずの信州しんしゅう上越じょうえつ山国やまぐに地方においてさえ、夜は雨戸をあけていないと、ねむられないほどの暑くるしさだった。
三十年後の東京 (新字新仮名) / 海野十三(著)
日本では昔その苗木なえぎがわがくにへ渡って今日信州しんしゅう〔長野県〕あるいは東北地方にわずかに見るばかりである。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
信州しんしゅうの鯉はじめて膳に上る、果して何の祥にや。二時間にじかん眠りて、頭やや軽き心地す。次の汽車に乗ればさきに上野うえのよりの車にて室を同うせし人々もここに乗りたり。
みちの記 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
信州しんしゅう飛騨ひだなどの歩荷ぼっかとちがう点は、かれらの全部が婦人であることが一つ、汽車に乗ってくるので足ごしらえをしないことが一つ、それから荷物の荷造りがかんたんで
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
信州しんしゅう戸隠とがくし山麓なる鬼無村きなしむらという僻村へきそんは、避暑地として中々なかなか土地ところである、自分は数年ぜんの夏のこと脚気かっけめ、保養がてらに、数週間、此地ここ逗留とうりゅうしていた事があった。
鬼無菊 (新字新仮名) / 北村四海(著)
東京の有名な大宝石商の玉村たまむら氏のお嬢さんで、妙子たえこさんという方だ。信州しんしゅうのある温泉場からの帰りみちを、お父さんの一行と分れて、一人のばあやを供に、数日ここに滞在しているのだ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
彼女はその雑誌に時々所感を寄する信州しんしゅうの一男子の文章を読んで、其熱烈な意気は彼女の心をうごかした。其男子は良人の友達の一人で、稀に信州から良人を訪ねて来ることがあった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
めですから、おウ、尾州びしゅう因州いんしゅう土州としゅう信州しんしゅう早籠はや二梃だ。いってやんねえ」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
上手じょうずな人たちは東京や大阪までいって一月ひとつきも帰らなかった。また信州しんしゅうの寒い山国へ出かけるものもあった。あまり上手でない人や、遠くへいけない人は村からあまり遠くない町へいった。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
伝吉は信州しんしゅう水内郡みのちごおり笹山ささやま村の百姓の一人息子ひとりむすこである。伝吉の父は伝三と云い、「酒を好み、博奕ばくちを好み、喧嘩けんか口論を好」んだと云うから、まず一村いっそんの人々にはならずもの扱いをされていたらしい。
伝吉の敵打ち (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
たとえば信州しんしゅうへんでもある東西に走る渓流けいりゅうの南岸の斜面には北海道へんで見られるような闊葉樹林かつようじゅりんがこんもり茂っているのに
日本人の自然観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
役小角後学えんのしょうかくこうがく 烏龍道人うりゅうどうにん信州しんしゅう黒姫くろひめ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし自分が最近に中央線の鉄道を通過した機会に信州しんしゅう甲州こうしゅうの沿線における暴風被害を瞥見べっけんした結果気のついた一事は
天災と国防 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
信州しんしゅう沓掛くつかけ駅近くの星野温泉ほしのおんせんに七月中旬から下旬へかけて滞在していた間に毎日うるさいほどほととぎすの声を聞いた。
疑問と空想 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
自分らと並んで見物していた信州しんしゅう人らしいおじさんが連れの男にこの熊は「人格」が高いとかなんとかいうような話をしていた。熊の人格も珍しい。
あひると猿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
たとえば信州しんしゅうの山地にある若干の植物は満州まんしゅう朝鮮ちょうせんと共通であって、しかも本州の他のいずれの地にも見られないといったような事実があるそうである。
日本人の自然観 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
去年の夏信州しんしゅう沓掛くつかけ駅に近い湯川ゆかわの上流に沿うた谷あいの星野温泉ほしのおんせんに前後二回合わせて二週間ばかりを全く日常生活のわずらいから免れて閑静に暮らしたのが
あひると猿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
八月初旬のある日の夕方信州しんしゅう星野温泉ほしのおんせんのうしろの丘に散点する別荘地を散歩していた。とんぼが一匹飛んで来て自分の帽子の上に止まったのを同伴の子供が注意した。
三斜晶系 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ひと月前の七月十三日の夜には哲学者のA君と偶然に銀座の草市を歩いて植物標本としてのがまの穂や紅花殻べにばながらを買ったりしたが、信州しんしゅうでは八月の今がひと月おくれの盂蘭盆うらぼん
沓掛より (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
箱根はこね強羅ごうらを思い出させる。また信州しんしゅうに「ゴーロ」という山名があり、高井富士たかいふじの一部にも「ゴーロ」という地名がある。上田うえだ地方方言で「ゴーロ」は石地の意だそうである。
言葉の不思議 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ことしの夏、信州しんしゅうのある温泉宿の離れに泊まっていたある夜の事である。
人魂の一つの場合 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
この夏信州しんしゅう星野温泉ほしのおんせんから小瀬温泉こせおんせんまで散歩したとき途中で道の別れるところに一人若い男が休んでいたので、小瀬へはこちらでいいかと聞くと、それでは反対で白糸しらいとの滝へ行ってしまうという。
地図をながめて (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
試みに中央線の汽車で甲州こうしゅうから信州しんしゅうへ分け入る際、沿道の民家の建築様式あるいは単にその屋根の形だけに注意してみても、私の言うことが何を意味するかがおぼろげにわかるであろうと思う。
連句雑俎 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
信州しんしゅう軽井沢かるいざわせんたきグリーンホテルの三階の食堂で朝食を食って、それからあの見晴らしのいい露台に出てゆっくり休息するつもりで煙草たばこに点火したとたんに、なんだかけたたましい爆音が聞こえた。
小爆発二件 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)