一振ひとふり)” の例文
ものとを見較みくらべながら、かたまけると笑方ゑみかたの、半面はんめんおほニヤリにニヤリとして、岩魚いはな一振ひとふり、ひらめかして、また、すた/\。
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
平次は落着拂つてその下を見ると、底の方へ押込むやうに入れてあるのは、一振ひとふり匕首あひくち、拔いて見ると、思ひの外の凄い道具です。
して、事あらはれなば一振ひとふりやいばに血を見るばかり。じやうの火花のぱつと燃えては消え失せる一刹那いつせつなの夢こそすなはち熱き此の国の人生のすべてゞあらう。
黄昏の地中海 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
神尾主膳は、青地錦の袋に入れた一振ひとふりの太刀を床の間から取り外しました。それは多分伯耆ほうきの安綱の刀でありましょう。
大菩薩峠:14 お銀様の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
枯木の根本には一振ひとふり高麗剣こまつるぎが竜の飾のあるつかを上にほとんどつばも見えないほど、深く突き立っていたのであった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
わすれもしませぬ、それはわたくし三浦家みうらけ嫁入よめいりするおりのことでございました、はは一振ひとふりりの懐剣かいけんわたくし手渡わた
それから、トルコ製だという短剣を見せられたが、その一振ひとふりには、どう間違ったのか⦅刀工サヴェリイ・シビリャコフ⦆というロシア名の銘が刻んであった。
倒るゝ音大地を響かせり、立ち寄りてこれを見るに、果して百足のむかでなり、竜神はこれを悦びて、秀郷を様々にもてなしけるに、太刀一振ひとふり巻絹まきぎぬ一つ、鎧一領、頸うたる俵一つ
と金剛力を出して一振ひとふりすると恐ろしい力、鳥居は笠木かさぎ一文字いちもんじもろにドンと落ちた。
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
四人よにんまでたふしたが、だい番目ばんめにのつそりとあらはれて露西亞ロシヤ陸軍士官りくぐんしくわんけ六しやくちか阿修羅王あしゆらわうれたるやうなをとこ力任ちからまかせにわたくし兩腕りよううでにぎつて一振ひとふりばさんずいきほひ
窪田清音は、立って、床脇から、彼のった一振ひとふりを取ってそれへ差出した。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
第一可恐おそろしいのは、明神の拝殿のしとみうち、すぐの承塵なげしに、いつの昔に奉納したのか薙刀なぎなた一振ひとふりかかっている。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
平次は裏木戸の外のちょっと人目につかぬ物蔭にしゃがむと、泥と血にまみれた、匕首あいくち一振ひとふり持って来ました。
彼は身仕度をすませると、壁の上の武器の中から、頭椎かぶつちつるぎ一振ひとふりとって、左の腰に結び下げた。それからまた炉の火の前へ行って、さっきのようにあぐらをいた。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「そりゃ刀でございます、名刀が一振ひとふりかくしてあるんでございます」
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
紫玉はスツと立つて、手のはずみで一振ひとふり振つた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)