田中早苗
1884 〜 1945
翻訳者としての作品一覧
或る精神異常者(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
彼は意地悪でもなく、といって、残忍酷薄な男でもなかった。ただ非常にかわった道楽をもっていたというだけのことだ。しかしその道楽もたいていやりつくしてしまって、いまでは、それにもなんら …
読書目安時間:約9分
彼は意地悪でもなく、といって、残忍酷薄な男でもなかった。ただ非常にかわった道楽をもっていたというだけのことだ。しかしその道楽もたいていやりつくしてしまって、いまでは、それにもなんら …
幻想(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
乞食は、その日、辻馬車の扉を開け閉てして貰いためた僅かの小銭を衣嚢の底でしっかと握り、寒さで青色になって、首をちぢめて、身を切るような寒風を避ける場所を探しながら、急ぎ足の人々とと …
読書目安時間:約9分
乞食は、その日、辻馬車の扉を開け閉てして貰いためた僅かの小銭を衣嚢の底でしっかと握り、寒さで青色になって、首をちぢめて、身を切るような寒風を避ける場所を探しながら、急ぎ足の人々とと …
乞食(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
夜は刻々に暗くなってゆく。 一人の老ぼれた乞食が、道ばたの溝のところに立ちどまって、この一夜を野宿すべき恰好な場所を物色している。 彼はやがて、一枚のあんぺらにくるまって身を横える …
読書目安時間:約10分
夜は刻々に暗くなってゆく。 一人の老ぼれた乞食が、道ばたの溝のところに立ちどまって、この一夜を野宿すべき恰好な場所を物色している。 彼はやがて、一枚のあんぺらにくるまって身を横える …
自責(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
扉が開いたけれど、私は廊下に立ちどまってもじもじしていると、 「此室でございます」 私を迎えに来て其家まで案内してくれた婆さんが、こういって再び促したので、私は思いきって入って行っ …
読書目安時間:約10分
扉が開いたけれど、私は廊下に立ちどまってもじもじしていると、 「此室でございます」 私を迎えに来て其家まで案内してくれた婆さんが、こういって再び促したので、私は思いきって入って行っ …
十時五十分の急行(新字新仮名)
読書目安時間:約9分
「今日お発ちだそうですね、ムッシュウ」 と跛の男が私に問いかけた。 「ああ、月曜の朝にマルセイユへついていないと、都合がわるいからね。十時五十分の急行でリオン停車場から発とうと思っ …
読書目安時間:約9分
「今日お発ちだそうですね、ムッシュウ」 と跛の男が私に問いかけた。 「ああ、月曜の朝にマルセイユへついていないと、都合がわるいからね。十時五十分の急行でリオン停車場から発とうと思っ …
誰?(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
その日、私はかなり遅くまで仕事をやった。そしてやっと書物机から眼をあけたときは、もう黄昏の仄暗さが書斎に迫ってきていた。私はそのままで数分間、じっとしていた。非常に根気をつめた仕事 …
読書目安時間:約10分
その日、私はかなり遅くまで仕事をやった。そしてやっと書物机から眼をあけたときは、もう黄昏の仄暗さが書斎に迫ってきていた。私はそのままで数分間、じっとしていた。非常に根気をつめた仕事 …
ふみたば(新字新仮名)
読書目安時間:約8分
創作家のランジェは、黙って、大きな卓机から一束の手紙を取りだした。その文束は真紅なリボンで結えてあった。 「あなたは、これが要るんですか。どうしても取りかえそうと云うんですか」 彼 …
読書目安時間:約8分
創作家のランジェは、黙って、大きな卓机から一束の手紙を取りだした。その文束は真紅なリボンで結えてあった。 「あなたは、これが要るんですか。どうしても取りかえそうと云うんですか」 彼 …
碧眼(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
女は寝台のそばに立って、しょんぼりと考えこんでいた。病室用のだぶだぶな被布にくるまっているせいでもあろうが、何だか実際よりも痩せ細って見えた。 あの愛くるしい顔もすっかり衰えてしま …
読書目安時間:約11分
女は寝台のそばに立って、しょんぼりと考えこんでいた。病室用のだぶだぶな被布にくるまっているせいでもあろうが、何だか実際よりも痩せ細って見えた。 あの愛くるしい顔もすっかり衰えてしま …
ペルゴレーズ街の殺人事件(新字新仮名)
読書目安時間:約12分
列車は夜闇の中をひた走りに走っていた。 私の車室にいた三人の乗客——老紳士と、若い男と、ごく若い女——は、誰も眠らなかった。若い女がときどき若い男に何か話しかけると、男は身振りで答 …
読書目安時間:約12分
列車は夜闇の中をひた走りに走っていた。 私の車室にいた三人の乗客——老紳士と、若い男と、ごく若い女——は、誰も眠らなかった。若い女がときどき若い男に何か話しかけると、男は身振りで答 …
麻酔剤(新字新仮名)
読書目安時間:約10分
「わたしなんか、麻酔剤をかけなければならぬような手術をうけるとしたら、知らないドクトルの手にはかかりたくありませんね」 と美くしいマダム・シャリニがいいだした。 「そんなときは、や …
読書目安時間:約10分
「わたしなんか、麻酔剤をかけなければならぬような手術をうけるとしたら、知らないドクトルの手にはかかりたくありませんね」 と美くしいマダム・シャリニがいいだした。 「そんなときは、や …
無駄骨(新字新仮名)
読書目安時間:約11分
そのジャン・ゴオテという男は、見たところ、ちっとも危険な犯罪者らしくなかった。 年齢はちょっと見当がつかないが、弱そうな小柄の青年で、何だか子供の時分から病身で悩んで来たという風で …
読書目安時間:約11分
そのジャン・ゴオテという男は、見たところ、ちっとも危険な犯罪者らしくなかった。 年齢はちょっと見当がつかないが、弱そうな小柄の青年で、何だか子供の時分から病身で悩んで来たという風で …
“田中早苗”と年代が近い著者
きょうが誕生日(2月26日)
きょうが命日(2月26日)
今月で生誕X十年
今月で没後X十年
メアリー・ウォルストンクラフト・シェリー(没後170年)
フィヨードル・ミハイロヴィチ・ドストエフスキー(没後140年)
福沢諭吉(没後120年)
ピョートル・アレクセーヴィチ・クロポトキン(没後100年)
小出楢重(没後90年)
田中貢太郎(没後80年)
宮島資夫(没後70年)
村松梢風(没後60年)
今年で生誕X百年
今年で没後X百年
アリギエリ・ダンテ(没後700年)
ウラジミール・ガラクティオノヴィチ・コロレンコ(没後100年)
ピョートル・アレクセーヴィチ・クロポトキン(没後100年)
池田輝方(没後100年)
岡崎雪声(没後100年)