おそ)” の例文
「なぜお前そんな心配げな目附めつきをしているのだい。なんでもないじゃないか。丈夫な時だって、夢におそわれて飛び起きる事はあるからなあ。」
みれん (新字新仮名) / アルツール・シュニッツレル(著)
叔母のようすには心をぞっとさせるようなものがあるし、つれこまれたところが墓地だというだけでも、子供の頭にはおそわれるような恐怖が生じた。
日本婦道記:おもかげ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
私は物におそわれたような心持で早々に家へ帰った。その当時、わたしは毎日出勤するのに、和服を着て出ることもあれば、洋服を着て出ることもあった。
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
こちらへこしてからも私は三日にあげず怖い夢におそはれてよるよなか家ぢゆう逃げまはらなければならなかつた。
銀の匙 (新字旧仮名) / 中勘助(著)
あはれ其時そのとき婦人をんなが、ひきまつはられたのも、さるかれたのも、蝙蝠かうもりはれたのも、夜中よなか𩳦魅魍魎ちみまうりやうおそはれたのも、思出おもひだして、わし犇々ひし/\むねあたつた
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
余はさながら不測の運命におそわれて悄然しょうぜんとして農夫の顔其まゝにものいわぬ哀愁に満ちた自然の面影にやるせなき哀感あいかんさそわれて、独望台ぼうだいにさま/″\の事を想うた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
我に二六かてからんとならば二七力量りきりやうの男どもこそ参りつらめ。你がやうの二八げたるさましてねぶりをおそひつるは、きつねたぬきなどのたはむるるにや。二九何のおぼえたるわざかある。
なしおり参らせ候 昨夜もごいっしょにふねにて伊香保にわらびとりにまいり候ところふとたれかがわたくしどもの間に立ち入りてお姿は遠くなりわたくしはふねより落ちると見ておそわれ候ところを
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
燈火ともしびわずかほたるの如く、弱き光りのもとに何の夢見て居るか罪のなき寝顔、せめてもうとお計りも大きゅうして銀杏いちょうまげ結わしてから死にたしとそでみて忍び泣く時お辰おそわれてアッと声立て
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
手をすこし痙攣けいれんさせながらのどのところまで持って行ってそれを抑えるような手つきをする、——夢におそわれてでもいるのではないかと思って、私が起してやったものかどうかと躊躇っているうち
風立ちぬ (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
おそはれて苦しかりしも覚めぬればかさねて夢を見ぬ世うれしも
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
【夢に】人おそはれて恰も重荷に壓せらるゝ如く感ずるをいふ
神曲:02 浄火 (旧字旧仮名) / アリギエリ・ダンテ(著)
浪之助はおそわれたようにゾッとした。
剣侠 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
わたしは物におそわれたような心持で早々に家へ帰った。その当時、わたしは毎日出勤するのに、和服を着て出ることもあれば洋服を着て出ることもあった。
ゆず湯 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
あわれあの時あの婦人おんなが、蟇にまつわられたのも、猿に抱かれたのも、蝙蝠に吸われたのも、夜中に魑魅魍魎ちみもうりょうおそわれたのも、思い出して、わしはひしひしと胸に当った。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今其畑に来て見れば、直ぐ隣の畑には爺さんを追い払う云わば敵の展望台があたりを睥睨へいげいして立って居る。爺さんは昼は其望台の蔭で畑打ち、夜は望台の夢におそわるゝことであろう。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
一四三里遠き犬の声を力に、家に走りかへりて、彦六にしかじかのよしをかたりければ、一四四なでふ狐にあざむかれしなるべし。心のおくれたるときはかならず一四五まよはし神のおそふものぞ。
自分はやはり堀川の屋形に住んでいて、こんな悪夢におそわれているのではないかと、小坂部は疑った。
小坂部姫 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
おそわれたるごとく四辺あたりみまわし、あわただしくの包をひらく、衣兜かくしのマッチを探り、枯草に火を点ず。
紅玉 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
都はおそわれた様に深夜しんやに火の息を吐いて居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
おそはれたる如く四辺あたりみまはし、あわただしくつつみをひらく、衣兜かくしのマツチを探り、枯草かれくさに火を点ず。
紅玉 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
ようよう欺しすかしてその晩はもかく寝付きましたが、そのあくる晩も右の散し髪の湿しおれた女が枕辺に這い寄って、御免下さい御免下さいと悲しそうに訴える、その都度に小児までが夢におそわれて
お住の霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
わたしは物におそわれたような心持で、奥さんの顔を見つめた。
深見夫人の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
物におそわれたように二人はぎょっとした。
半七捕物帳:30 あま酒売 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)