高祖頭巾こそずきん)” の例文
と、一ぼくの柳の木の陰から、お高祖頭巾こそずきんをかぶった一人の女が、不意に姿をあらわしまして、わたしの方へ歩いてまいりましたが
犬神娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
最後に寝るから起きるまでかぶり通しのお高祖頭巾こそずきんを、やはり男のかぶる山岡頭巾というものにかぶり直して、眼ばかりを現わしました。
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ふたりともにすっぽりと、お高祖頭巾こそずきんでおもてをかくしていたが、前を行くやせ型のすらりとした影こそは、まさしくあの娘の千萩ちはぎでした。
高祖頭巾こそずきんかむり、庭下駄を履いたなりで家を抜け出し、上野の三橋さんはしの側まで来ると、夜明よあかしの茶飯屋が出ていたから、お梅はそれへ来て
闇夜の梅 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それから半刻はんときばかりの後、春の夜風の薄寒さを、お高祖頭巾こそずきんしのいで、お静はたった一人路地の外へ出て行きました。
優しい跫音あしおとが背後から近づいて来たのも、かれはちゃんと知っていた。縮緬ちりめんのお高祖頭巾こそずきんを眼深に冠って小豆色の被布を裾長に着た御殿風のお女中だった。
冬の日、紫のお高祖頭巾こそずきんかぶって、畳紙たとうがみや筆の簾巻すだれまきにしたのを持って通ってゆく姿が今でも眼に残っている。
回想録 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
それは君子の母と同じ年頃の三十七、八歳かと思われたが、この女は鼠色のお高祖頭巾こそずきんですっぽりと顔まで包んで、出ているところといっては目だけであった。
抱茗荷の説 (新字新仮名) / 山本禾太郎(著)
ハッとして見返ると、なんと、そこに、紫いろの、お高祖頭巾こそずきん、滝じまの小袖、小脇に何やらかくい包をかかえるようにして、たたずんでいたのが、軽わざのお初だ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
いつだったか、先斗町ぽんとちょうで有名な美人の吉弥きちやと一緒に何彼と話していた時、お高祖頭巾こそずきんの話が出ました。
好きな髷のことなど (新字新仮名) / 上村松園(著)
陶は濃紫のお高祖頭巾こそずきんをかぶり、同じ色の吾妻コートを着て、やはり俺のほうを瞶めている。しかし生きた人間でない証拠に、顔の輪廓が薄れたり朦朧となったりする。
湖畔 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ちょうど後世のお高祖頭巾こそずきんのように首の全部をおゝい隠して、肩の上まで垂れているので、顔はこゝからは分らないけれども、しょんぼりたゝずんで空の方を仰いでいるのは
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
初めて私がランプを見たのは、六つの時、雪の降る夜、紫色の縮緬ちりめんのお高祖頭巾こそずきんかぶった母につれられて、東京から伊賀の山中の柘植つげという田舎町へ帰ったときであった。
洋灯 (新字新仮名) / 横光利一(著)
高祖頭巾こそずきんを冠って、養生ようじょう眼鏡をかけますとチョットしたお金持ちの後家ごけさん位に見えましたそうで、興行中でも何か気に入らぬ事がありますと、そんな風にして姿を隠して
押絵の奇蹟 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
その頃流行っていたお高祖頭巾こそずきんを被り、白粉おしろいをつけ、女の着物、女下駄で出てゆくのを、母も女中も笑い囃しながら見ていたが、やがて何時間もたってから澄まして帰って来た。
「ほう。……女人だ!」それは紛れもなく、お高祖頭巾こそずきんおもてを隠した若い女性だった。
くろがね天狗 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そして加之しかのみならず、事実を興味深く粉飾するために、何の小説にも一様に、護謨ゴム靴の刑事と、お高祖頭巾こそずきんの賊とが現れ、色悪と当時称せられた姦淫が事件の裏にひそんでいるのに極まっていた。
大衆文芸作法 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
その時の母親は藤ねずみのお高祖頭巾こそずきんに顔をつつんで、人目を避けていた。冬の頃かと思う。その姿を、鶴見はまざまざと、いつであろうとも、のあたりに思い浮べることが出来る。
芸者その頃冬の夜道を向嶋あたりへ遠出とおでに行く時、お高祖頭巾こそずきんをかぶるもありき。四角なる縮緬ちりめんの角に糸を輪にして付け、それを耳朶じだにかけてかぶるなり。小袖こそでには糸織縞に意気な柄多くありたり。
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
高祖頭巾こそずきんをかぶっている。私は立ちどまって待った。
チャンス (新字新仮名) / 太宰治(著)
ここでめぐり会った米友をおかしいと思うと共に、それと相合傘をしていたお高祖頭巾こそずきんの女の人を、お角は不審に思わないわけにはゆきません。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
常夜燈の蔭から現われた、女役者の荻野八重梅、町家の女房という風采みなりである。お高祖頭巾こそずきんを冠っている。二人の行衛ゆくえを見送ったが、さすがに気持ちが悪いらしい。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
高祖頭巾こそずきんを冠り、ふッくりと綿の這入りし深川鼠三ツ紋の羽織に、あいの子もち縞の小袖の両褄りょうづまを高く取って長襦袢を出し、其の頃ゆえ麻裏草履をゆわい附けに致しまして
「ちくしょうッ、あれだ、あいつだ。たしかに、あのお高祖頭巾こそずきんの女ですぜ」
それからチュッチュッと鳴る紅絹裏もみうらの袂、———私の肉体は、凡べて普通の女の皮膚が味わうと同等の触感を与えられ、襟足から手頸てくびまで白く塗って、銀杏返いちょうがえしのかつらの上にお高祖頭巾こそずきんかぶ
秘密 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そんな風に、心につぶやいた雪之丞は、大喜利おおぎりをつとめてしまうと、ふじいろのお高祖頭巾こそずきんもしっとりと、迎えのかごに身を揺られて、長崎屋から示された、根岸の料亭をさして急ぐのだった。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
市十郎は、初めて、お高祖頭巾こそずきんの顔を見つめて
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
またその二人が、一方が男であり、一方が女であることも同じだが、あちらのは、女の人がお高祖頭巾こそずきんで覆面をしているのに、男の方は素面すめんです。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
此方こちらは幸兵衞夫婦丁度霜月九日の晩で、宵からくもる雪催しに、正北風またらいの強い請地のどてを、男は山岡頭巾をかぶり、女はお高祖頭巾こそずきんに顔を包んで柳島へ帰る途中、左右を見返り、小声で
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
高祖頭巾こそずきんで顔をかくした品のよいお屋敷者らしい美人でござりましてな。
世にも小意気な歩みぶり——水いろ縮緬ちりめんのお高祖頭巾こそずきん、滝縞の小袖の裾も長目に、黒繻子くろじゅすと紫鹿昼夜帯はらあわせを引ッかけにして、町家の伊達だて女房の、夜歩きとしか、どこから見ても見えないのだ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
見れば品のよい令嬢姿の女が、顔にはお高祖頭巾こそずきんをかぶったままでの、しとやかな挨拶です。二人は一議にも及ばず
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と云いながらお高祖頭巾こそずきんをとるを見て
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「お高祖頭巾こそずきんか!」
お銀様の覆面は、一時流行したお高祖頭巾こそずきんといったあれなのです。黒縮緬を釣合いよく切らせて、上手に巻いている。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ほどなくお角の前へ姿を現わしたのは、ねまきに羽織を引っかけた女の姿に違いはないけれど、どうしたものか、頭からすっぽりとお高祖頭巾こそずきんをかぶったままです。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
金助は、全く怖る怖る二階の間へ通り、キチンとかしこまって、恐れ入った形をしていると、いつもの通りお高祖頭巾こそずきんをすっぽりとかぶったお銀様は、行燈あんどんの光におもてをそむけて
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その女は、男のような風をして、お高祖頭巾こそずきんをすっぽりとかぶっておりました。
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
高祖頭巾こそずきんをかぶっているということも一目でわかるが、お高祖頭巾をかぶっているという婦人は、世間にいくらもあることですから、お高祖頭巾に向って特別注意を払ったのではありません。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)