騎虎きこ)” の例文
然しこうなっては騎虎きこの勢い、渡辺に従って座敷に踏み込むより仕方がなかった。奥さんも別に二人の上るのを拒みもしなかった。
支倉事件 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
「前途の多難は今宵ばかりでない。どこまでも大事を取って進まねばならぬ。騎虎きこの勇にはやって、二つとない身を傷つけたら何といたす」
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
後ではもうよそうとも思いましたれどいわゆる騎虎きこいきおいにわかに改めるわけにもゆかず、そのままに推し通しましたが今となって考えて見ると
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
しこうして彼を横殺したるもの、また長防尊攘の流れを汲むものなるを思えば、恐るべきは実に騎虎きこの勢といわざるべからず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「誰じゃ。」と、一声とがめました。もうこうなっては、甥を始め、私までも騎虎きこの勢いで、どうしてもあの沙門を、殺すよりほかはございません。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
……このおやじの千里眼、順風耳じゅんぷうじのモノスゴサを今となって身ぶるいするほど思い知らされたものだが、しかしこの時には所謂いわゆる騎虎きこの勢いという奴だった。
爆弾太平記 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
ここまで来ると騎虎きこの勢いに乗じて、結局日本のコトをついでにこれと同列に並べてみたくなるのである。
日本楽器の名称 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「ようし、それでは拙者せっしゃがひとりで。」と言いながら危い足どりでその舟に乗り込み、「ちゃんとオールもございます。沼を一まわりして来るぜ。」騎虎きこいきおいである。
花火 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「どうぞ。いらしって頂戴! 歓待するわ。」新子も、騎虎きこの勢い、やや棄鉢すてばち気味にいった。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
もううなれば騎虎きこの勢いで、今更あとへは引返ひっかえされぬ。巡査も頬に打撲傷を受けながら、なおも二三げん進んで行くと、天井は少しく高くなって、初めて真直まっすぐに立つことがきた。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
私は騎虎きこのいきおいでどうしようもなく、私の前に平気で立っているお竜ちゃんには、ほんの少し水をひっかける真似まねをしたきりで、あとは逃げていくたかちゃんを追っかけて
幼年時代 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
わたくしは、それを聴いてそうには違いあるまいとは思いながら、すでに騎虎きこいきおいです。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
召使たちは当惑したように入り口近くに佇んでいるし……騎虎きこの勢いであった。
陰獣トリステサ (新字新仮名) / 橘外男(著)
「ラッパののわが耳にひびく時は吾人ごじんのまさに騎虎きこの行動をならうの時なり」
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
浪人者も、騎虎きこの勢い——止め手がないので
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
騎虎きこの勢、仕方がなかったんです」
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
かれの予想ははずれなかった。秀次隊を一挙にみじんとした徳川勢の水野みずの大須賀おおすが丹羽にわ榊原さかきばらの諸隊は、騎虎きこの勢いをもって殺到した。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その代りまたあとに残った二人は、本来さほど敵意のある間柄でもなかったが、騎虎きこの勢いでむを得ず、どちらか一方が降参するまで雌雄しゆうを争わずにはいられなくなった。
素戔嗚尊 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
私は気弱く狼狽ろうばいして、いや何処ということもないんだけど、君たちも、行かないかね、と心にも無い勧誘がふいと口からすべり出て、それからは騎虎きこの勢で、僕にね、五十円あるんだ
老ハイデルベルヒ (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼の同僚は、彼の威勢にあっせられて唯々いいたり、彼の下僚は、彼の意を迎合して倉皇そうこうたり、天下の民心は、彼が手剛てごわき仕打に聳動しょうどうせられて愕然がくぜんたり。彼は騎虎きこの勢に乗じて、印幡沼いんばぬま開鑿かいさくに着手せり。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
「ううん。」小太郎は、騎虎きこの勢い、そう答えた。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
「おれも騎虎きこの勢さ」
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
あなた方三将と藤吉郎とが、殿の御命令以上、騎虎きこの勢いで徹底的に——つい、やり過ぎたのだと——世間に触れたらよいわけではござらぬか。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「言ってみ給え。」騎虎きこの勢である。
乞食学生 (新字新仮名) / 太宰治(著)
けれど、もうこうなっては、騎虎きこの勢いというもの、戒刀を引っさげた龍太郎は、まッさきに背後はいごからとびかかって
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「義貞が都へ逃げ入ったものなら逃げ入ったでいい。彼を追う騎虎きこの勢いで、都へなだれ入ってはならん。山崎、芥川より先へは進み出るなと制しておけ」
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、義貞を追ッかけて行った味方が、騎虎きこにまかせて都へ乱入などしたら始末におえぬ。先に、制止はしておいたが、一将の伝令などでは統御とうぎょがつくまい。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
為に、なおさら危惧きぐされたが、騎虎きこの勢いだ。押せと、行軍をつづけて行った。——時に、彼方から羽柴家の使番がただ一騎でこれへ来るという報らせがあった。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わけて天皇の笠置潜幸かさぎせんこうという冒険には、理も非もなく、千載一遇せんざいいちぐう騎虎きこをそれにはやりきッている。
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
立合たちあいの奉行ぶぎょう目付めつけが、なにか、制止せいしするような声をかけたが、騎虎きこ、耳にも入らばこそ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「兵部、そちも行け。長追いすなと、騎虎きこの者どもを、叱ッて来い」
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)