駈足かけあし)” の例文
狂った頭を高々とらしながら事務室を出て行ったが、右へ折れると今度はほとん駈足かけあしで、精神病患者の病棟の入口までやって来た。
「今日の××小学校の遊戯はよく手がそろった」とか、「今日の△△小学校の駈足かけあし競争で、今迄にない早い足の子がいた」とかうわさしてよろこんでいた。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
それから漱石氏はあまり厭味いやみのない気取った態度で駈足かけあしをしてその的のほとりに落ち散っている矢を拾いに行って、それを拾ってもどってから肌を入れて
漱石氏と私 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
五人一緒に、右向け、左向け、まわれ右、すすめ、駈足かけあし、とまれ、それからラジオ体操みたいなものをやって、最後に自分の姓名を順々に大声で報告して、終り。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
彼は、居留地の七番館の塀の蔭に、首を沈めてかがんでいた。木刀を抑えた駈足かけあしの巡査が、三、四名、眼の前をかすめたが、かえったひとりの眼が、トム公を見つけた。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
駈足かけあしになって、列伝のように名だけをならべるが、京都の老妓中西君尾なかにしきみおは、井上侯が聞太もんただった昔の艶話つやばやしにすぎないとして、下田歌子しもだうたこ女史は明治初期の女学、また岸田俊子きしだとしこ
明治大正美人追憶 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
今日はねむいなあ、お母さん、今日は体操の時間にうんと駈足かけあしをしたんで、睡いんですよ。
新学期行進曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
駈足かけあしにせよ歩度を伸べたる驅足にせよ。燃ゆる毒は我脈をめぐれり。そは世におそろしき戀の毒なり。異議なくば、あすをも待たで猶太の翁を訪へ。われ。そは餘りに無理なるたのみなり。
人々は酒気を帯て、今御輿が町の上の方へ担がれて行ったかと思うと急に復た下って来る。五六十人の野次馬は狂するごとく叫び廻る。多勢の巡査や祭事掛は駈足かけあしで一緒に附いて歩いた。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
先生は大きな目をいて見せて、またサツサと歩き出しました。私どもは駈足かけあしで後へつゞいて行きました。そのとき先生の丈高い姿が、ほんたうの騎士屋のやうにたのもしく思はれました。
騎士屋 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
かすり衣服きものの、あの弟御おとうとごが、廂帽子ひさしばうしよこツちよに、土間どま駈足かけあしで、母樣おつかさん使つかひて、伸上のびあがるやうにして布施ふせするから、大柄おほがら老道者らうだうじやは、こしげて、つゑつたたなそこけて、やつこ兩方りやうはう
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
さあ、カーン/\が鳴つたといふと、みんな大急ぎに駈足かけあしで帰つて来ます。
先生と生徒 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
明治の初年に狂気のごとく駈足かけあしで来た日本も、いつの間にか足もとを見て歩くようになり、内観するようになり、回顧もするようになり、内治のきまりも一先ひとまずついて、二度の戦争に領土は広がる
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
おどろいて二人ふたりとも、つぎの一駈足かけあしんだこともあつた。
画の悲み (旧字旧仮名) / 国木田独歩(著)
彼女はいつもびっくりした愁い顔で「はいはい」といい、中腰ちゅうごし駈足かけあしでその用を足そうと努める。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
先生は、ひさしの破れかゝつた学生帽をかぶり、短いはかま薩摩下駄さつまげたといふいでたちで、先頭に立つてサツサと歩いて行かれます。私どもはなかば駈足かけあしで、その後へついて行かねばなりませんでした。
騎士屋 (新字旧仮名) / 土田耕平(著)
いやどうも……柿の渋は一月半おくれても、草履は駈足かけあしで時流に追着く。
小春の狐 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
房枝は、両親と大切な生産力の一つである工場とを救わんがために、一命を捨てる決心をし、今爆薬の花籠を抱いて、爆発しても被害のすくない安全な場所を求めて死の駈足かけあしをはじめたのであった。
爆薬の花籠 (新字新仮名) / 海野十三(著)
遠足も今は駈足かけあしいけはた
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)