雷霆らいてい)” の例文
わずかの時間の会見ながら、庄三郎にとっては光明優婆塞は、ある意味では「雷霆らいてい」であり、またある意味では「太陽」であった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
とばかり雷霆らいていの一撃。あッと小手から太刀を取り落した一角は、対手が鉄扇と見て身を泳がすが早いか、自斎の体に猛然と組みついた。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
同年十月八日から厩橋城を打ち囲み、追手搦手から揉み合わせ、攻め轟かすこと雷霆らいていもこれを避けるであろうという状況である。
老狸伝 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
〔譯〕雲煙うんえんむことを得ざるにあつまる。風雨ふううは已むことを得ざるにる。雷霆らいていは已むことを得ざるにふるふ。こゝに以て至誠しせい作用さようる可し。
と、突如とつじょとして、雷霆らいていのように、一喝されて、こちらは、身を隠して、隠密おんみつと事を成そうとしつつある、いわば、後暗い彼——
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
紙の上で読んで見たときはもつともらしく思はれたが、この水底の雷霆らいていを聞きながら考へて見ると、そんな理窟は馬鹿らしくなつてしまふのである。
うづしほ (新字旧仮名) / エドガー・アラン・ポー(著)
空に向って雷霆らいてい叱咤しったしたのは此の時の話であるが、その後風雨がなお止まず、遂に鴨川の洪水こうずいを見るに至った。
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
無用だ御坊という叫びを聞いたとき、俊恵は慄然りつぜんとしてそこへ立ちすくんだ、雷霆らいていが頭上におちて瞬時にかれの骨肉を粉砕したかに思えた、かれはわれ知らず呻いた。
荒法師 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「弟はきっと、ひどくとうとい者になるだろう。これは狐が来て、雷霆らいていごうを避けていたのだ。」
小翠 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
太陽の熱という生物の根元、地球の回転によって生ずる春夏秋冬、雷霆らいてい風雪、禽獣虫魚、草木花卉かきすべてこれらの広大なる現象に詩を見出すことは我が俳句の使命であります。
俳句への道 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
哲学者胡適氏はこの価値の前に多少氏の雷霆らいていの怒を和げる訳には行かないであらうか?
侏儒の言葉 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
しかしそのために雷霆らいていの如く怒号する野の予言者を排斥してはならない。質素な襟飾をつけた謙遜な教授は尊敬すべきであるが、そのために舌端火を吐く街頭の闘士を軽蔑することはできぬ。
端粛とは人間の活力の動かんとして、未だ動かざる姿と思う。動けばどう変化するか、風雲ふううん雷霆らいていか、見わけのつかぬところに余韻よいん縹緲ひょうびょうと存するから含蓄がんちくおもむき百世ひゃくせいのちに伝うるのであろう。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
伯林ベルリン城下に雷霆らいてい凱歌がいかを揚げたる新独逸ヨングドイチエを導きて、敗れたる国の文明果して劣れるか、勝たる国の文明果して優れるかと叫べるニイチエの大警告に恥ぢざる底の発達を今日に残し得たる彼の偉業は
渋民村より (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
久保井校長のつぎにきた熊田校長というのはおそろしく厳格な人であった、久保井先生は温厚で謙遜で中和の人であったが、熊田先生は直情径行ちょくじょうけいこう火のごとき熱血と、雷霆らいていのごとき果断をもっている。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
ありあまる雷霆らいてい
智恵子抄 (新字旧仮名) / 高村光太郎(著)
小兵なりといえど金吾、さはさせじとあるべきところです、その手をパッと払い上げると、両々の体が相迫っている機をすかさず、雷霆らいていの早さで体当て一本
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
哲学者胡適氏はこの価値の前に多少氏の雷霆らいていの怒を和げるわけには行かないであろうか?
侏儒の言葉 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
とまたも叱咜するように、「私の命令にそむいたが最後、雷霆らいてい汝らを打ち殺すぞよ!」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
私の母が雷霆らいていごうに遭って、あなたのお父様の御恩を受けましたし、また私とあなたは、五年の夙分しゅくぶんがありましたから、母が私をよこして、御恩返しをしたのです。もう私達の宿願は達しました。
小翠 (新字新仮名) / 蒲 松齢(著)
この鉄骨のビルデングでは雨風の音が聞こえぬばかりか雷霆らいていの響きさえそれ程に響かない。併し雨風が止んでいるどころか一層猛威をたくましくしていることは漸くこの雷霆のはためきで想像された。
丸の内 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
「余が自慢の犬、天下無敵の雷霆らいていづくる犬を曳いて、あの勝負庭の四隅よすみの柱を三度廻ってまいれ。そしてもとの犬舎いぬやへつないで戻ったら、余の腹立ちもゆるしてやる」
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
山のの風雨雷霆らいてい常ならず
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
雷霆らいていのような声であった。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
雷霆らいていの一剣あやまたず大月玄蕃の横鬢から頬へかけて糸のような一筋の紅をかすった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
しかし、蒋はこのところ、女色と酒にすさみきり、相手が相手だったせいもあろうが、たちまち脾腹ひばら雷霆らいていの一けんは食うし、ひたいにも一しゅうをうけてよろめき、見かけほどもなく、その精彩を欠いていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)