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陰翳
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いんえい
ふりがな文庫
“
陰翳
(
いんえい
)” の例文
いずれも散文精神の伴奏として
陰翳
(
いんえい
)
のような役割をしている先生の詩情が、詩の形をとって真正面から打ち出されたものがない代りに
「珊瑚集」解説
(新字新仮名)
/
佐藤春夫
(著)
それはあらゆる楽しい希望を含み、しかも少しも性的な
陰翳
(
いんえい
)
を持っていない
無垢
(
むく
)
な歓楽の頂上かもしれない。だが、あまりに清教徒的だ。
第二の接吻
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
平安朝史の上では、宮廷の秘めごとは源氏物語の
陰翳
(
いんえい
)
のうちにささやかれ、庶民の中の
花柳紅燈
(
かりゅうこうとう
)
は、江口の里が、代表している。
随筆 新平家
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
煉瓦塀
(
れんがべい
)
や小さな
溝川
(
みぞがわ
)
や
楓
(
かえで
)
の樹などが落着いた
陰翳
(
いんえい
)
をもって、それは彼の記憶に残っている昔の郷里の街と似かよってきた。
美しき死の岸に
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
蚊帳の青味と隈の濃いその灯かげの
陰翳
(
いんえい
)
とで、美しい小枝の小鼻は、白い枕被いの上で嶮しくそげて見えるのであった。
播州平野
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
▼ もっと見る
きわめて僅かな時間に、眼のまわりに
暈
(
かさ
)
があらわれ、それが顔つきぜんたいに深い
陰翳
(
いんえい
)
を与えた。
眸子
(
ひとみ
)
は大きくなり、きびしい光を帯びて
耀
(
かがや
)
いた。
葦
(新字新仮名)
/
山本周五郎
(著)
翻訳文そのものが文学になる先に、原作の語学的理会と、その国語の個性的な
陰翳
(
いんえい
)
を没却するものであってはならない。
詩語としての日本語
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
空にはながらく動かないでいる
巨
(
おお
)
きな雲があった。その雲はその地球に面した側に藤紫色をした
陰翳
(
いんえい
)
を持っていた。
蒼穹
(新字新仮名)
/
梶井基次郎
(著)
日の夕となりて、模糊として力なき月光の全都を
被
(
おほ
)
ひ、隨處に際立ちたる
陰翳
(
いんえい
)
を生ぜしとき、われはいよ/\ヱネチアの眞味を領略することを得たり。
即興詩人
(旧字旧仮名)
/
ハンス・クリスチャン・アンデルセン
(著)
この世は男子のみですでに
陰翳
(
いんえい
)
を投げおるものが、更に女子に助けられて、一層暗黒ならしめらるる事となる。
婦人問題解決の急務
(新字新仮名)
/
大隈重信
(著)
何という崇高さだったろう! 下の方は氷河の
陰翳
(
いんえい
)
の如く、上に行くにつれ、暗い
藍
(
インディゴオ
)
から曇った乳白に至る迄の微妙な色彩変化のあらゆる段階を見せている。
光と風と夢
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
東塔は周知のごとく三重の塔ではあるが、各層に
裳層
(
もこし
)
がついているので六重の塔のようにみえる。そしてこの裳層のひろがりが塔に音調と
陰翳
(
いんえい
)
を与えている。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
そうして、ふと触れる路傍の小石の一つ一つに、その杖は、忘れられた過去の日の、思いがけない音色と
陰翳
(
いんえい
)
とを捉えるのだ。杖の音ははねかえって、八方に
谺
(
こだま
)
する。
二十歳のエチュード
(新字新仮名)
/
原口統三
(著)
庸三はすれすれに歩いている葉子を
詰
(
なじ
)
った。
一抹
(
いちまつ
)
の
陰翳
(
いんえい
)
をたたえて、彼女の顔は一層美しく見えた。
仮装人物
(新字新仮名)
/
徳田秋声
(著)
俯向
(
うつむ
)
いた前髮は重さうで、
脅
(
おび
)
えて剃らなかつたといふ、半元服の
公卿眉
(
くげまゆ
)
が、眞珠色に見える豊かな頬に影を落して、この女の悲劇的な
陰翳
(
いんえい
)
を、ひときは深く見せるのです。
銭形平次捕物控:331 花嫁の幻想
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
その時の、魂の上に落ちた
陰翳
(
いんえい
)
を私は何時までも拭ふことが出来ない。私は家のものに隠れて手拭につゝんだ
小糠
(
こぬか
)
で顔をこすり出した。下女の美顔水を盗んで顔にすりこんだ。
途上
(新字旧仮名)
/
嘉村礒多
(著)
淫猥
(
いんわい
)
とも云えば云えるような
陰翳
(
いんえい
)
になって顔や
襟頸
(
えりくび
)
や手頸などを
隈取
(
くまど
)
っているのであった。
細雪:03 下巻
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
陰翳
(
いんえい
)
は彼が
肋
(
あばら
)
に
第二邪宗門
(新字旧仮名)
/
北原白秋
(著)
しかも古来たびたび、
匈奴
(
きょうど
)
の南下に侵された歴史の古い
痍跡
(
きずあと
)
は、今とて、どこかここの繁華に哀しい
陰翳
(
いんえい
)
を消していない。
新・水滸伝
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
順一の顔には時々、
嶮
(
けわ
)
しい
陰翳
(
いんえい
)
が
抉
(
えぐ
)
られていたし、嫂の高子の顔は思いあまって
茫
(
ぼう
)
と
疼
(
うず
)
くようなものが感じられた。
壊滅の序曲
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
日本語が平俗だと考えている以上に、外国語の持っている様な
陰翳
(
いんえい
)
を自在に浮べる事の出来ないのを
悪
(
にく
)
んでいるのであろう。だから何のための詩語か。
詩語としての日本語
(新字新仮名)
/
折口信夫
(著)
鼻の下に柔かいぼんやり黒い
陰翳
(
いんえい
)
がある丸顔には、青年らしいものと少年ぽいものと混りあってのこっている。
雑沓
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
たゞ、青山の葬場に集まった人
丈
(
だけ
)
は、
活々
(
いきいき
)
とした周囲の中に、しめっぽい静かな
陰翳
(
いんえい
)
を、投げているのだった。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
私は昨日
土堤
(
どて
)
の土に寢轉びながら何時間も空を見てゐた。日に照らされた雜木山の上には動かない巨きな雲があつた。それは底の方に藤紫色の
陰翳
(
いんえい
)
を持つてゐた。
闇への書
(旧字旧仮名)
/
梶井基次郎
(著)
講堂のみを眺めると唐の宮殿のように華麓で、寺としての
陰翳
(
いんえい
)
に乏しい。鼓楼はそれ一つを離すとあまりに
華奢
(
きゃしゃ
)
であり、舎利殿は整備されすぎて古典の重味に欠ける。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
早い話が、映画を見ても、アメリカのものと、
佛蘭西
(
フランス
)
や
独逸
(
ドイツ
)
のものとは、
陰翳
(
いんえい
)
や、色調の工合が違っている。演技とか脚色とかは別にして、写真面だけで、何処かに国民性の差異が出ている。
陰翳礼讃
(新字新仮名)
/
谷崎潤一郎
(著)
あらゆる感覚器官が一時に緊張し、或る超絶的なものが精神に宿ったことを、私は感じた。どんな錯雑した論理の委曲も、どんな微妙な心理の
陰翳
(
いんえい
)
も、今は
見遁
(
みのが
)
すことがあるまいと思われた。
光と風と夢
(新字新仮名)
/
中島敦
(著)
お仙の顏は、朗らかで何んの
陰翳
(
いんえい
)
もありません。
銭形平次捕物控:331 花嫁の幻想
(旧字旧仮名)
/
野村胡堂
(著)
最も出来合いでないものの感じ得る
陰翳
(
いんえい
)
——それによって明暗が益〻生彩を放つところの、動く生命力の発露として、苦痛をも亦愛し得るだけ生活的です。
獄中への手紙:03 一九三六年(昭和十一年)
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
優雅と繊細を極めた平安朝芸術にくるまれた貴族生活の“
陰翳
(
いんえい
)
の
美
(
び
)
”が自然に宿す
黴
(
かび
)
の一つというほかはない。
新・平家物語:02 ちげぐさの巻
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
あゝいうお話はなるべく
陰翳
(
いんえい
)
の残らないように、ハッキリと片を付けて置きたいと思いますの。ねえ、美奈さん、貴女このお話の、
証人
(
ウィットネス
)
になって下さるでしょうねえ。
真珠夫人
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
それを発言された折のあらゆる表情
陰翳
(
いんえい
)
を如実に想像する宗教的想像力である。僕は太子時代の歴史をかきながら、かかる想像力のいかに
稀有
(
けう
)
至難であるかを痛感した。
大和古寺風物誌
(新字新仮名)
/
亀井勝一郎
(著)
義母はまだ看護のつづきのように、しみじみと死体に指を触れていた。それは彼にとって知りすぎている体だった。だが硬直した皮膚や筋肉に今はじめて見る
陰翳
(
いんえい
)
があった。
死のなかの風景
(新字新仮名)
/
原民喜
(著)
これは正成の持ち前というしかない
陰翳
(
いんえい
)
だろうか。妻子の消息などにも、ただ
頷
(
うなず
)
いてみせただけで。
私本太平記:05 世の辻の帖
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
一見極めて矛盾した様な性格らしく、それだけに政治家としては、
陰翳
(
いんえい
)
が多い訳だ。
四条畷の戦
(新字新仮名)
/
菊池寛
(著)
陰翳
(
いんえい
)
となって、下唇の引緊った蒼白い横顔にはびこっているのであった。
伸子
(新字新仮名)
/
宮本百合子
(著)
暮れ迫るままに深まる物のあいろは、
陰翳
(
いんえい
)
の美を見るにはよく、現実を見るには都合がわるい。
随筆 新平家
(新字新仮名)
/
吉川英治
(著)
“陰翳”の意味
《名詞》
陰翳(いんえい :「陰影」に「同音の漢字による書きかえ」がなされる)
薄暗いかげ。
ニュアンス。
(出典:Wiktionary)
陰
常用漢字
中学
部首:⾩
11画
翳
漢検1級
部首:⽻
17画
“陰”で始まる語句
陰
陰鬱
陰影
陰気
陰陽師
陰氣
陰欝
陰陽
陰々
陰謀