間髪かんはつ)” の例文
旧字:間髮
後醍醐が、笠置へはしるやいな、間髪かんはつをいれず、大覚寺へも六波羅の手入れが襲った。——宮は身をもって敵の重囲からのがれた。
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ危険が間髪かんはつに迫った途端に、その日ごろ持っている海の迷信が逆上的に働いて、こうせねば船のすべてが助からぬ
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
これはすごいね、このままケズらず載せたものかね、と見廻みまわすと、真杉静枝が間髪かんはつれず、ケズることないわ、ホントにそう言ったのですもの、と叫んだ。
二十七歳 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
たちまち千弩せんどともに発し、弦に応じて数百の胡兵こへいはいっせいに倒れた。間髪かんはつを入れず、浮足立った残りの胡兵に向かって、漢軍前列の持戟者じげきしゃらが襲いかかる。
李陵 (新字新仮名) / 中島敦(著)
反吐へどもどしていればいるほど形勢はあやうくなるだけであった。彼はほとんど行きつまった。しかし間髪かんはつれずというきわどい間際まぎわに、うまい口実が天から降って来た。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
仁太のその間髪かんはつをいれぬことばは、あまりにも非常識ひじょうしきだったために、係官に正当に聞こえなかったとしたら、思ったことをそのとおりいった仁太はよほどの果報者かほうものだ。
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
ぴしゃあんと雪の原、木霊こだまして、右の頬を殴られたのは、助七であった。間髪かんはつを入れず、ぴしゃあんと、ふたたび、こんどは左。助七は、よろめいた。意外の強襲であった。
火の鳥 (新字新仮名) / 太宰治(著)
突くと見せる治部太夫の虚に、宮内はヒタと進んで刺されようとした、間髪かんはつれず、事の意外に気を打たれた治部太夫が、愕いたその刹那せつなに、非力者宮内の太刀はえた。
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
火事早い江戸だから間髪かんはつを入れず近所の表戸が開く、人が飛出す——
この至廉しれんな札を眺めると共に、今まで恋愛と芸術とに酔っていた、お君さんの幸福な心の中には、そこに潜んでいた実生活が、突如としてその惰眠から覚めた。間髪かんはつを入れずとは正にこのいいである。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
間髪かんはつ
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
直感と、本能だけが、彼の間髪かんはつにさらされた生命をからくも二、三度ふせぎ交わしていた。そしてその閃光のあいだに
井上真改の一刀は鍔元つばもとから折れて彼方かなたに飛び、水もたまらず島田の一刀を肩先に受けて、すさまじき絶叫をあとに残して雪に斃れる。それと間髪かんはつれず後ろから廻った岡田弥市の拝み討。
と、ひとり誰かが、怒濤どとうの中へ飛び入るように吠えて、だっと出る——。間髪かんはつを入れず、だっと味方の四、五名も続く。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
間髪かんはつれざる打合いで場内は一体にどよみ渡って、どっちがどう勝ったのか負けたのか、たしかに見ていたはずなのが自分らにもわからないで度を失うているのを、中村一心斎は真中へ進み出で
然し、踏みしめている雪にすべって、二つの体はすぐ旋舞せんぶを描き、間髪かんはつをねらう双方の刃が、双方の小袖を払い合った。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ここに再度追ッついてその男を見つけたのだから「——野郎っ」とばかり間髪かんはつも措かなかったのは当然でもある。
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
主将の頭脳は、より大局に対して、間髪かんはつかずに、第二のそなえを天下にく必要がある。この勝利を決定づけ、この大機を政治づけるためにである。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
もし、うんといわぬ場合は、奴の背後うしろから不意の一ト太刀をまず浴びせる、きさまも、間髪かんはつを入れず、相手の横を、抜き払え。——と話は出来ていたのである。
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
八風斎はっぷうさいの鼻かけ卜斎ぼくさいは、さてこそ、秀吉ひでよしのまわし者でもあろうかと邪推じゃすいをまわして、そこの唐紙からかみたおすばかりな勢い——間髪かんはつをいれずにあとを追いかけていった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれの消息については、漠然として疑惧ぎぐをもっただけで、徳島の城下を離れてきた有村や三人組、もとより間髪かんはつの差で、ここへ弦之丞とお綱がくるとは夢にも知らない。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
普化ふけの作法として、とるべからざる天蓋をとったのは、間髪かんはつを思う心支度である筈だが、それが、白刃しらはを渡す宣言とは思えぬほど、あくまで神妙に見せて脱いだのだった。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その間髪かんはつには、ふたりの頭脳あたまに、助かッたぞッ——という歓呼かんこがあがったであろうが、結果は同じことだった。ただ業火ごうか地獄じごくから八かん地獄じごく位置いちえたにすぎなかった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
間髪かんはつ、さらに隙を突いて、燕青の肩か頭が、相手の鳩尾みずおちへ体当りを与えたかと思うと、任原は二ツ三ツしどろ足を踏んでよろけた。観衆がわーッとよろこぶ。任原は吠えた。猛虎の勢いで
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……ところが、間髪かんはつに、もうこれは義貞の方に洩れていたものだった。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
片手で眼をふさいだ間髪かんはつに、竹童はいちはやく、般若丸はんにゃまるの刀をひろって、バラバラッと廊下ろうかへでたが、それと一しょに、奇蹟きせきの火焔独楽、ポーンとはね返って、竹童のもとへ舞いもどってきた。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
本庄鬼六以下が、わっと言ったのが、ほとんど間髪かんはつの差であった。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「まことに、ここは間髪かんはつるかるかの大機と存ぜられます」
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして、その郷士の男が、頭上から刀を下ろす間髪かんはつ
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
が武蔵には、間髪かんはつのまに、処する方法が立っていた。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
双方とも間髪かんはつをいれない殺気と殺気であった。
三国志:06 孔明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その間髪かんはつに、お綱はさっ——と立ち上がった。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
危機は間髪かんはつ
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)