門並かどなみ)” の例文
旧字:門竝
薯蕷じねんじやう九州きうしゆう山奥やまおくいたるまで石版画せきばんゑ赤本あかほんざるのなしとはなうごめかして文学ぶんがく功徳くどく無量広大むりやうくわうだいなるを当世男たうせいをとこほとんど門並かどなみなり。
為文学者経 (新字旧仮名) / 内田魯庵三文字屋金平(著)
コレラは門並かどなみといってよいほど荒したので、葛湯くずゆだの蕎麦そばがきだの、すいとんだの、煮そうめんだの、熱いものばかり食べさせられた。
見渡すところほとん門並かどなみ同じようなカッフェーばかり続いていて、うっかりしていると、どれがどれやら、知らずに通り過ぎてしまったり
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
この小路の左右に並ぶ家には門並かどなみ方一尺ばかりの穴を戸にあけてある。そうしてその穴の中から、もしもしと云う声がする。
京に着ける夕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「やり切れねえな、門並かどなみだ。この様子だと、お常坊に気のないのは、柴井町の友次郎親分だけ、ってことになりはしないか」
曙町へはいると、ちょっと見たところではほとんど何事も起らなかったかのように森閑として、春のように朗らかな日光が門並かどなみを照らしている。
震災日記より (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しか此節このせつ門並かどなみ道具屋だうぐやさんがふえまして、斯様かやうしなだれ見向みむきもしないやうになりましたから、全然まるでがないやうなもんでげす、うもひど下落げらくをしたもんで。
士族の商法 (新字旧仮名) / 三遊亭円朝(著)
とお城の方をながめながらののしり噪いでいます。これは今宵に限ったことではない、町の人はこの二三日の晩のある一定の時刻になると、こうして門並かどなみに立って
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼は怪しく胸騒ぎのするような心持をもって、門並かどなみに立ててある青い竹の葉の枯れしおれたのが風に鳴るのを俥の上で聞いて行った。橋を渡り、電車路を横ぎった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ず此の銀座通りだけでも、門並かどなみの商店に奉公して居る丁稚でっちかずは、幾百人幾千人あるか分らない。
小僧の夢 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
そこで、この一町内も門並かどなみに杭を打たれてしまふと、その月のお彼岸ひがんぎ——廿八にじゅうはち日の晩でした。
赤い杭 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
六は門並かどなみ六七軒。
浮舟 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
神田の通りで、門並かどなみ旗を立てて、もう暮の売出しを始めた事だの、勧工場かんこうばで紅白の幕を張って楽隊に景気をつけさしている事だのを話した末
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
大門通りも大丸からさきの方は、長谷川町、富沢町と大呉服問屋、太物ふともの問屋が門並かどなみだが、ここらにも西陣の帯地や、褂地うちかけじなどを扱う大店おおだながある。
旧聞日本橋:02 町の構成 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
平次と八五郎は、お妻の茶屋を出ると、衣紋坂えもんざかを下って、五十間を門並かどなみに、大門前までいろいろの事を訊ね廻りました。
今なら重婚であるが、その頃は門並かどなみが殆んど一夫多妻で、妻妾一つ家に顔を列べてるのが一向珍らしくなかったのだから、女房を二人持っても格別不思議とも思われなかった。
それですから大方、天狗様の卵だろうということに、ほぼ多くの人の意見は一致して、それが毎晩、一定の時を定めて出て来ると、こうして町中総出の姿で、門並かどなみに立って見物するのであります。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その大工の子供や、紙屑屋の子供が、はやり病いで死んだのならば仕方がありません。門並かどなみに葬礼が出ても不思議がないんですが、そこに少し気になることがあったもんですから、八丁堀の旦那方に申し上げて、手を
「どうだ八、辻斬退治をする気はないか。こいつは十手捕縄の晴れだぜ。腕自慢のお武家が門並かどなみ持て余した相手だ」
銭形平次捕物控:126 辻斬 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
宗助そうすけ例刻れいこくかへつてた。神田かんだとほりで、門並かどなみはたてゝ、もうくれ賣出うりだしをはじめたことだの、勸工場くわんこうば紅白こうはくまくつて樂隊がくたい景氣けいきけさしてゐることだのをはなししたすゑ
(旧字旧仮名) / 夏目漱石(著)
この附近は下宿屋が門並かどなみといっていいほどあって、手すりに手拭てぬぐいがどっさりぶらさがっていたり、寝具を干してある時もあるが、夕方などは、書生の顔が鈴なりになっているのだった。
田沢稲船 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「町内の三人娘へ、門並かどなみ眼をつけるのは慾が深すぎるぜ、——三人とも手前が言い交したわけじゃあるめえ」
落合の兄哥あにきに遠慮して、土地の若い男は、門並かどなみ御遠慮申上げているんだ。お菊にれただけの男なら、一束ひとたばや二束はあるが、お菊を手に入れたのは手前だけよ。
商賣には飛んだ仕合せだが、世間體が惡いので腐つて居ますよ。尤も亭主の岩吉は名前は頑固だが飛んだ色師で、店中の娘と門並かどなみ變な噂を立てられたりしますが、お茶汲みを
「そいつは善いあんべえだ、どうせ手を着けなきやならない、それを門並かどなみ歩くとしようか」
銭形平次捕物控:274 贋金 (旧字旧仮名) / 野村胡堂(著)
稲荷のやしろまで探して行きましたが、その辺には、佐吉の烏金からすがねを借りて、ひどい目に逢わされている家は、門並かどなみの有様ですから、どこの娘をしょっ引いていいのか、縛ることを好きな万七も
「十八貫はあるでせうね、どしり/\と歩くと、門並かどなみたなの上の物が落ちる」