部屋べや)” の例文
水夫部屋べやの入り口まではたくさんの船員や船客が物珍しそうについて来たが、そこまで行くと船員ですらが中にはいるのを躊躇ちゅうちょした。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
藤原六雄ふじわらろくおは、ランプ部屋べやへはいって、ランプの掃除そうじをしていた。彼は、今年二十八歳のひどくだまりやの、気むずかしやであった。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
三日たってから、甚兵衛はそっと人形部屋べやのぞいてみました。すると部屋へや真中まんなかに、大きなひょっとこの人形が立っています。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
右近が取らせてあったおこも部屋べやは右側の仏前に近い所であった。九州の人の頼んでおいた僧は無勢力なのか西のほうの間で、仏前に遠かった。
源氏物語:22 玉鬘 (新字新仮名) / 紫式部(著)
だが、その李逵と戴宗は、玄関の供待ともま部屋べやへ残しておいてずっと奥へ案内された。こよいのやかたは、また一だんと、ゆうべの席よりは奥ふかい。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
むろん昼間はだれも彼の仕事部屋べやにはいることは厳禁されていた。が、中にはただの物好きな見物人のような顔をして「拝み」に来る信徒の女もいた。
このふたりは、兄妹きょうだいではありませんが、まるで、ほんとの兄妹のように仲よしでした。ふたりの両親は、おとなりどうしで、どちらも屋根裏部屋べやに住んでいました。
部屋べやのかげで、さざんかが白くさくころに、松吉、杉作のうちでは、あんころもちをつくりました。
いぼ (新字新仮名) / 新美南吉(著)
間もなく吉左衛門の隠居部屋べやでは、「皆さん、はかまでもお取り。」という老夫婦の声を聞いた。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
全くわるくないね。間数まかずはと? ぼく書斎しよさいけん用の客に君の居間ゐま食堂しよくだうに四でふ半ぐらゐの子ども部屋べやが一つ、それでたく山だが、もう一つ分な部屋へやが二かいにでもあれば申分なしだね。
(旧字旧仮名) / 南部修太郎(著)
無骨ぶこつぺん律義りつぎをとこわすれての介抱かいほうひとにあやしく、しのびやかのさゝややが無沙汰ぶさたるぞかし、かくれのかたの六でうをばひと奧樣おくさましやく部屋べや名付なづけて、亂行らんげうあさましきやうにとりなせば
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
と堀口生は正三君の腕をつかまえて、小使い部屋べやの後ろへ引っぱっていった。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
三四郎は長火鉢ながひばちの前へすわった。鉄瓶てつびんがちんちん鳴っている。ばあさんは遠慮をして下女部屋べやへ引き取った。三四郎はあぐらをかいて、鉄瓶に手をかざして、先生の起きるのを待っている。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
で、キャベツを三つざるへ入れて、コック部屋べやの方へデッキを歩いてると、船が急に傾いたんで、左の足をウンと踏んばったんだよ。
海に生くる人々 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
甚兵衛じんべえ不思議ふしぎに思いましたが、ともかくもさるのいうとおりにして、三日間人形部屋べやふすまめ切ってきました。さるはどこかへ行ってしまいました。
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
荷物のない物置き部屋べやのような貧しい一室のすみっこに、夜具にくるまって暑気に蒸されながらくずれかけた五体をたよりなく横たえねばならぬのだ。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
上のほうへはきだすようにつぶやき、そのまま、殿堂のもの部屋べやへ隠れてしまった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
正三君はあやうくたおれるところをよろめいて、やもりのように小使い部屋べやの側面にへたばりついた。堀口生は投げそこねたとみると、こぶしを固めて突きにきた。活動で見おぼえた拳闘けんとうの応用だ。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
それだけの狼狽ろうばいをさせるにしても快い事だと思っていた。葉子は宿直部屋べやに行って、しだらなく睡入ねいった当番の看護婦を呼び起こして人力車じんりきしゃを頼ました。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
「三日のあいだ、この人形部屋べやにはいってはいけません。三日たったらこの部屋へやにおいでなさい、すると大きな人形が一つ立っています。その人形はなんでも、あなたのいうとおりにひとりでにうごきます」
人形使い (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
玄関わきの六畳ででもあろうか、二階の子供の勉強部屋べやででもあろうか、この夜ふけを下宿から送られた老女が寝入ったあと、倉地と愛子とが話し続けているような事はないか。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)