退引のっぴき)” の例文
退引のっぴきはできませんから、寄るとさわるとこれが行末と、これからその結着ということに座談が落ちて行かないということはありません。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ツル子が無理に引止めて戸若に夕飯の御馳走をしたのがキッカケとなって、二人は退引のっぴきならぬところへ陥込んでしまった。
衝突心理 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
気を長くして機嫌を取り取りとうとう退引のっぴきならぬ義理ずくめに余儀なくさしたのが明治三十九年の秋から『朝日』に連載した『其面影そのおもかげ』であった。
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
そして、私にとっては長い間のような気がするが、実は僅かに昨日の午後からの短い間に、事情は他の方面で、退引のっぴきならない方へ進展してしまった。
或る男の手記 (新字新仮名) / 豊島与志雄(著)
天才少女の名をとどろかした頃はシューマンとの間に美しい愛情が芽生え、それが退引のっぴきならぬ状態にまで生長していった。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
退引のっぴきのならんお尋ねを迷惑には思いましたが、此の所で一言いちごん申しておかなければ、殿様が自分をほかの女中達のように思召して、万一父助七へ御意のあった時は
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
最早退引のっぴきならなくなった。如何いかに誠意を以て謝罪しても、此処まで出て了っては駄目なのは明かである。彼は自分の失敗を誤魔化す手段は只一つしかないと思った。
偽刑事 (新字新仮名) / 川田功(著)
彼女かれはだんだんに暗くなってゆく水の色を眺めながら、夢見る人のように考えつめていた。退引のっぴきならない難儀を逃れるのには、いっそここを逃げて帰るに限るとも思った。
黄八丈の小袖 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
事理のとおった退引のっぴきならぬ青年の問に、母が何と答えるか、美奈子は胸をふるわしながら待っていた。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
退引のっぴきならず二階で、膝詰の揮毫きごうとなる処へ、かさねて、某新聞の記者、こちらは月曜附録とかいう歌の選の督促で一足おくれたが、おくれただけ、なお怒ったように、階子段はしごだん
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「それは団君も退引のっぴきならないね。僕の学校にも丁度そんなかゝり合いに遭った男がいるよ」
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
こういう退引のっぴきならない場所で人に逢ったら、密入国したことがいっぺんに見ぬかれてしまう。なんとかして天幕を避けたいと思うが、東にも西にも道らしいものは見あたらない。
新西遊記 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
けれども、退引のっぴきならざるを得ない場合が、絶対に来ないとは誰しも断言出来ません。
仏教人生読本 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
殊にそれが、先祖の位牌いはいを譲り受けた戸主にとっては退引のっぴきならぬきずなであった。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
恥どころか退引のっぴきならぬ証拠を握られるのだ。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
お絹はわざと、お松に猶予ゆうよと口実を与えないかのように見えました。そうして退引のっぴきさせずにお松を自分の居間へ連れて来てしまいました。
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ところがこの頃退引のっぴきならない事情があって沼南に相談すると、君の事情には同情するが金があればいいがネ、とたもとから蟇口がまぐちを出してさかさに振って見せて
三十年前の島田沼南 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
実は退引のっぴきならぬ二人の間のわだかまりの晩を、この献立こんだてで、一挙に片付けようとしたのも無理のない成行でした。
ズバリと度胆どぎもを抜いて頭ゴナシの短時間に退引のっぴきならぬところへい詰めてしまわねばならぬ。
冥土行進曲 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
それが今夜はまだ見えないので、どうしたのかと思っていますと、唯今この速達便をよこしまして、退引のっぴきならない用向きが起って、今夜は残念ながら出席することが出来ない。
慈悲心鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ただ、大金で退引のっぴきならず身をあがなわれ、国主という大権力者の前に引き据えられて是非もなく、できるだけその権力者の歓心を得ようという、切羽詰まった最後の逃げ道に過ぎないのだ。
忠直卿行状記 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
琴子は昏睡したまま、とうとう覚醒しなかった……兄は琴子を殺したのは自分だと思いこんでいるもんだから、君代に退引のっぴきならない弱点をおさえられて、思いどおりに振廻されることになった
肌色の月 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「お玉さん、退引のっぴきならねえ行きがかりで、俺もその人をかくまっているんだ、誰にも知られてはならないが、お前は別だから連れて来たんだ」
大菩薩峠:06 間の山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
平次は八五郎の後ろから、穏かな調子で——が退引のっぴきならぬ問いを投げかけました。
(それにしても、必死的な退引のっぴきならぬ電報の文句を!)と、圭子は考え出した。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
いよいよ退引のっぴきならない羽目はめになって、わたくしも困っているところへ、この二日の晩に宗兵衛のおかみさんが駕籠で乗り付けて来て、ここの家にあずけてある蝋燭をかえしてくれというのです。
半七捕物帳:47 金の蝋燭 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
退引のっぴきならぬ義理もあるのだろう、乗りかかった船で、ぜひに及ばぬ羽目になっているのだろう、ここは一番、拙者が肌をぬいでやろうかな
大菩薩峠:19 小名路の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「はア。」退引のっぴきならず、新子は真実の先端を、チョッピリ夫人に打ち明けた。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
平次は、これも祭の扮装なりのままの長吉を、明神下の自身番に引入れると、暑いにも構わず、表の油障子を締めさして、こう当ってみました。物柔かいうちにも、退引のっぴきさせぬ手厳しさがあります。
それはそうでもあろう、貴殿の諫言かんげんに従って思いとどまるのが道理かも知れないが、今はもう退引のっぴきのならぬ事態になっている。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
平次の言葉は親切でしたが、退引のっぴきさせぬ強いところがあります。
自分で退引のっぴきならぬ羽目に自分を追い込んで行くような気がした。
貞操問答 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
もしや、心安立こころやすだてにかおを合わせることがいとぐちとなって、退引のっぴきならぬこんがらかりに導いた日には、取っても返らないではないか。
大菩薩峠:27 鈴慕の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
昔なら、退引のっぴきならぬお声がかりの婚礼だぞ。どうだ、天野氏!
仇討禁止令 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
なるほど、あつらえてついにこしらえさせたと思われる装束が、早くもお雪ちゃんの枕許にちゃんと並んで催促している、こうなっては退引のっぴきがならない。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
勝平は、熱心に、退引のっぴきならないように瑠璃子に云った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
先方が、いよいよ恭謙であり、礼儀正しくあることによって、兵馬は自分で浅ましいと思いながらも、ここまで来ては退引のっぴきのならぬことですから
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
仮面めんを取ってしまいたいのだが、まずもって吉原の信心家へ招かれて、退引のっぴきのならなくなったのが小面倒の起りです。
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
いや、こいつは本物だ——と七兵衛が退引のっぴきさせられぬ思いをしたのは、顔面の左の部分にちらと認めた傷のあとです。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その切込みはまだそんなに深くはありませんでしたけれど、退引のっぴきならぬ破牢の極印ごくいんであることは確かであります。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
狼狽はしたけれども、こうなってみると、七兵衛は退却する必要もなく、また退引のっぴきはできない羽目になっている。
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ああして、あの人が、ああ折入って頼んだのは、よくよくのことに相違ないが、自分として、ああまで言われてみれば、全く退引のっぴきはできないではないか。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
退引のっぴきならずお目にかからなければならないようになったのも浅からぬ御縁というものじゃなくって——浅間の温泉では、ずいぶん失礼しちゃいましたわね。
大菩薩峠:36 新月の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「落ち行く先は、九州相良さがら……というわけではないが、肥後の熊本まで、退引のっぴきならずお供を仰せつかりそうだ」
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その挙動は、主人をして退引のっぴきさせぬ手詰てづめ催促さいそくに見えます。ここに至るとお君はどうしても、すべての危険を忘れてムク犬を信用せねばならなくなりました。
大菩薩峠:13 如法闇夜の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その時、検視の役人が二三、こそこそと額をあつめました。まもなく、右の小さい尼は、別な人に促されて、退引のっぴきならず数珠じゅずを納めて縄をとりあげたものです。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
こういう退引のっぴきならぬ場合の避難の意味で用いたひっかかりが、生涯この一人の女性の面倒を見なければならない負担として引きずられる、ということになってみると
大菩薩峠:38 農奴の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「第一、おれに食われるような娘じゃねえ、お邸奉公を勤めていた娘で、堅いことこの上なしだ、友達の義理で退引のっぴきならず預かってはみたものの、おれも実は心配なのだ」
大菩薩峠:10 市中騒動の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
その接近があまり急激に来たものですから、接近した時はもう退引のっぴきすることができません。見まいとしても、その全体を見なければならないところまで来てしまっていた。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
当然、自分は、その安達の黒塚の鬼の棲処すみかへ送りつけられて来たものだ。もう退引のっぴきがならない。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)