辻待つじまち)” の例文
岸本は連と一緒に旅の荷物を辻待つじまちの自動車に載せ、サン・ラザアルの停車場をして急いだ。町々は彼の見る車の窓から一目ごとに消えて行った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
憲作は辻待つじまち自動車を呼んで二人で乗って、東京第一の宝石店王冠堂へ来た。自動車を表に待たしたまま中に這入った。
黒白ストーリー (新字新仮名) / 夢野久作杉山萠円(著)
贔負目ひいきめには雪中せつちゆううめ春待はるまつまの身過みす世過よす小節せうせつかゝはらぬが大勇だいゆうなり辻待つじまちいとま原書げんしよひもといてさうなものと色眼鏡いろめがねかけて世上せじやうものうつるは自己おのれ眼鏡めがねがらなり
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
今夜は辻待つじまちの自動車や馬車が大方おほかた休んで居てたまにあつても平生ふだんの四倍ぐらゐのを云ふので、自分等は其処そこからゆるゆると※クトル・マツセの下宿まで歩いて帰つた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
其巡査の話に、正服せいふく帯剣たいけんで東京を歩いて居ると、あれは田舎のおまわりだと辻待つじまちの車夫がぬかす。如何してかるかときいたら、で知れますと云ったと云って、大笑した。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
もっとも書き手が書き手だから観察も奇抜だし、事件の解釈もおのずから普通の人間とは違うんで、こんなものができ上ったのかも知れません。実際スチーヴンソンという人は辻待つじまちの馬車を
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と云えば大抵お分りでしょう。こういうことは、普通なれば金壺眼かなつぼまなこのお婆さんか、辻待つじまち人力車夫じんりきしゃふが、紹介の労を取るのですが、ホラ、相手方が職業者ではない、身分のある御婦人です。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
頼んだ辻待つじまちの車が来た。荷物も既に別の車の上に積まれた。間もなく彼を乗せた車は品川から高輪たかなわへ通う新開の道路について、右へ動き左へ動きしながら長い坂を登って行った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そのうちでも車夫が一番多い。辻待つじまちをして退屈だから立っているに相違ない。
夢十夜 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
しかりつけられて我知われしらずあとじさりする意氣地いくぢなさまだしもこほる夜嵐よあらし辻待つじまち提燈ちやうちんえかへるまであんじらるゝは二親ふたおやのことなりれぬ貧苦ひんくめらるゝと懷舊くわいきうじやうのやるかたなさとが老體らうたいどくになりてやなみだがちにおなじやうなわづらかたそれも御尤ごもつともなりわれさへ無念むねんはらわたをさまらぬものを
別れ霜 (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)