護符ごふ)” の例文
この一語は、彼の心の護符ごふだった。生死の境に立つと、われ知らず、念仏ねんぶつのように、また、うたいの文句のように、くちからいて出た。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
護符ごふ——藥の功徳あらはれてか、その手紙のあつた翌日、五月八日に女子が生れたので、早速名づけ親になられたのだ。
薄色のうちぎを肩にかけて、まるでましらのように身をかがめながら、例の十文字の護符ごふを額にあてて、じっと私どもの振舞を窺っているのでございます。
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
このはこの中にはいっているのは、竜宮りゅうぐうのふしぎな護符ごふです。これをっていれば、天地てんちのことも人間界にんげんかいのことものこらず目にるようにることができます。
葛の葉狐 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
『まあ、』とフェアリイが云ふには、『そんなことは譯はない! 此處にどんな困難でもなくする護符ごふがある。』
私は常に護符ごふのやうに、けんは亨る謙は亨るとつぶやく、さうすると非常な勇気が出て来てトンネルの路を掘つてゆく工夫のやうに暗い中でもコツコツ、コツコツ働いてゆける。
地山謙 (新字旧仮名) / 片山広子(著)
いかがわしい地蔵の像を刻んでは盛んに売り出して暴利をむさぼり、怪しげな呪文じゅもん護符ごふを撒布して愚民を惑わす、との風聞もしきりなるにより、我々同志が事情をとくと見届けに参ったのだ。
大菩薩峠:26 めいろの巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
家づとに胡琴こきんを買へば店あるじ添へて与へぬ福の字の護符ごふ
案ずるより生むが易しで、護符ごふとしていた近衛家の往来状おうらいじょうも、それを出して示した所は、花隈城に近い湊川の渡しの木戸一ヵ所しかなかった。
黒田如水 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
北のかたを始め、わたくしどもまで心を痛めて、御屋形の門々かどかど陰陽師おんみょうじ護符ごふを貼りましたし、有験うげん法師ほうしたちを御召しになって、種々の御祈祷を御上げになりましたが
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
日蓮聖人の消息文せうそくぶんの中から、尼御前あまごぜたちにあたへられた書簡を拾つてゆくと、安産の護符ごふをおくられたり、生れた子に命名したりしてゐて、哲人日蓮、大詩人日蓮の風貌躍如として
「わが家には、家祖家時公の“置文おきぶみ”というものがあった。これは少弐しょうにの家の置文といってよかろう。護符ごふとして、大事に肌に持っているがよい」
私本太平記:11 筑紫帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いかにも凄じいつらがまえで、着ているものこそ、よれよれになった墨染の法衣ころもでございますが、渦を巻いて肩の上まで垂れ下った髪の毛と申し、くびにかけた十文字の怪しげな黄金こがね護符ごふと申し
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
これを以て、就任の折、職の護符ごふと信じたるものでござりまする。また、宇治の鉄淵禅師にも、折々、叱咤しったをいただき
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
物好きにも、護符ごふの禁を破って、人の世の地上へ、百八の魔をばらいたからには、行く末、どんな世態を見ることやら、いまから身も縮む思いがされます。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、狙う敵に一倍の憎しみと、信仰の護符ごふが頭上にあるので、その弾丸たまも、よくあたるのではないかと——織田方の雑兵などはすこし気味わるがった程であった。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おととし、菓子舗かしやあるじに、その店さきでいわれたことばを、勘太は、真人間に立ちかえる護符ごふとして来た。今日まで、一心、それを一つの目標として来たものだった。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
施薬院せやくいんをひらいて、薬師くすしだの上達部かんだちべだのが、薬をほどこしたり、また諸寺院で悪病神を追い退ける祈祷きとうなどをして、民戸の各戸口へ、赤い護符ごふなどをりつけてしまったけれど
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
日吉の頭には、寝ても起きても、その人の名が、護符ごふのようにりついて、離れなかった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さらに四人、同じ姿の者が、車の先に立ち、北斗七星の旗を護符ごふのごとく捧げていた。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これをお身の護符ごふともなされ、お身ご自身とも念じ給うて、肌身に持っていて下され
私本太平記:02 婆娑羅帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
おぬしらの護らんという自由とは何? 伝統とは何? それは皆、自己の栄華にだけ都合のよい偽瞞ぎまん護符ごふではないか。もはやそんな護符が通用する世ではないぞ。時勢を直視なさい。
新書太閤記:04 第四分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうした母を持ち、母のおしえを護符ごふとする子が、なんで、主君のお不為ふためを陣中で策しましょうや。……たとえ上将に対し、異議論争を云いたてましょうとも、胸に二心ふたごころはありません」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
べんもとに呼び出して、これを敵のうちへ追い放つなど、千変万化、じつに極まりのないもので、宋江が身の護符ごふとしている「天書」の活用も、これには、ほとんど用をなさないからであった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これが、彼の座右銘ともいえる護符ごふだったのである。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そうだ。忍ぼう。にんの一字を護符ごふとして」
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そなたにも、また家臣たちにも、そう心配かけてはすむまい。……今は何事もにんの一字が護符ごふよ。この九郎さえ忍びきればおことらの心も休まろう。——通せ、ここでよい。義経が仮病けびょうでないことも、景季の眼に見せてくりょう」
日本名婦伝:静御前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)