見詰みつめ)” の例文
雪をあざむく白い顔は前を見詰みつめたまま、すずしい眼さえも黒く動かさない、ただ、おさばかりが紺飛白こんがすり木綿の上をように、シュッシュッと巧みに飛交とびこうている。
菜の花物語 (新字新仮名) / 児玉花外(著)
三四郎はさむいのを我慢して、しばらく此あかいものを見詰みつめてゐた。其時三四郎のあたまには運命があり/\とあかうつつた。三四郎は又あたゝかい布団ふとんのなかにもぐり込んだ。
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
も云ず面を見詰みつめて居たりしが今日は仕方なし明日あすからはせいを出してかふやうに致されよ左右とかく其樣な事にては江戸えど住居すまひは出來難し先々御やすみなされと云捨いひすて我家わがやへこそはかへりけれ
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
今迄下を向いて、眤と一所ひとところ見詰みつめていた捕れた男は真青に血の気の失せた顔を上げて、ドシンと大地に下した鉞の方を見遣みやった。が直様すぐさままた下を向いて自分の膝のあたりを見詰めていた。
捕われ人 (新字新仮名) / 小川未明(著)
兼太郎は唯首肯うなずくばかり、いよいよ嬉しくて返事も出来ず涙ぐんだ目にじっとお照の様子を見詰みつめるばかりである。お照が二合罎を銅壺の中に入れる手付きにはどうやら扱いれた処が見えた。
雪解 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
斯う庭のおも見詰みつめますと、生垣の外に頬被ほゝかぶりをした男がたゝずんでる様子、能々よく/\透かして見ますると、飽かぬ別れをいたしたる恋人、伊之助いのすけさんではないかと思ったから、高褄たかづまをとって庭下駄を履き
雑魚ざこぴきかからない、万一や網でも損じてはいぬかと、調べてみたがそうでも無い、只管ひたすら不思議に思って水面みなも見詰みつめていると、何やら大きな魚がドサリと網へ引掛ひっかかった、そのひびき却々なかなか尋常でなかった
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
「お前は、今頃何処どこへ行くのだ」とたずねると、女房は、「急に用事が出来たから、△村まで行って来ます」と答えたが、そば同伴つれの男が、見詰みつめていると、女はそういいながら、眼を異様に光らして
月夜峠 (新字新仮名) / 水野葉舟(著)
私は黒い柱にかかった、古風の大きな八角時計を見上げた。縁の金色が、わずかに鈍い灰色の空気に光って、じっひとみを移さずに白い円盤を見詰みつめていると、長い針は遅々ちちと動いて、五分過ぎた。
不思議な鳥 (新字新仮名) / 小川未明(著)
月が有るからすかして見るとおどろいた、白糸縅しらいとおどしよろい鍬形打くわがたうちたるかぶといただき、大太刀をび手に十文字のやりげ容貌堂々威風凜々いふうりんりんたる武者である、某はあまり意外なものに出会い呆然ぼうぜんとして見詰みつめているうち
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
私は白い粉薬を見詰みつめていると、漸々だんだん気が変になって、意識が茫然として来て、この儘この粉薬を自分の口に入れはしまいかと疑った。——この時私は敢て顔を上げては見なかったが——。
老婆 (新字新仮名) / 小川未明(著)