西片町にしかたまち)” の例文
表面には「駒込西片町にしかたまち十番地いノ十六 寺田寅彦殿 上根岸かみねぎし八十二 正岡常規つねのり」とあり、消印は「武蔵東京下谷したや 卅三年七月二十四日イ便」
子規自筆の根岸地図 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかも長谷川君のうち西片町にしかたまちで、余も当時は同じ阿部あべ屋敷内やしきうちに住んでいたのだから、住居すまいから云えばつい鼻の先である。
長谷川君と余 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
これから土産みやげつてく、西片町にしかたまち友染いうぜんたちには、どちらがいかわからぬが、しかず、おのこのところつてせんには、と其處そこあんのをあつらへた。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
私は日本屈指の大新聞、東都日報の外交部につとめる傍ら、本郷西片町にしかたまちの小さな活版屋で、家庭週報という四ページ新聞を、毎日曜ごとに発行していた。
けむりを吐かぬ煙突 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
本郷ほんごう西片町にしかたまちには、山野夫人の伯父に当る人が住んでいた。両親をなくした彼女には、この人が唯一の身内だった。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ある日、東京本郷ほんごう西片町にしかたまちへんを歩いていますと、ふとある家からへい越しにもれてくる読書の声がわたしの耳にはいりました。思うさま声を出して本を読んでいる人の声です。
力餅 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
村雲むらくもすこし有るもよし、無きもよし、みがき立てたるやうの月のかげに尺八のの聞えたる、上手ならばいとをかしかるべし、三味さみも同じこと、こと西片町にしかたまちあたりの垣根ごしに聞たるが
月の夜 (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
本郷ほんごう西片町にしかたまち、麻田椎花邸。
六百句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
帰朝後いよいよ東京へ落ち着かれたころは、西片町にしかたまちへんにしばらくおられて、それから曙町あけぼのちょう生涯しょうがいの住居を定められた。
田丸先生の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
……今日けふかへりがけに西片町にしかたまち親類しんるゐ一寸ちよつとらう。坂本さかもとから電車でんしやにしようと、一度いちど、おぎやうまつはう歩行あるきかけたが。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
西片町にしかたまち十番地への三号。九時までに向こうへ行って掃除そうじをしてね。待っててくれ。あとから行くから。いいか、九時までだぜ。への三号だよ。失敬」
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
三味さみも同じこと、こと西片町にしかたまちあたりの垣根かきねごしにききたるが、いと良き月に弾く人のかげも見まほしく、物がたりめきてゆかしかりし。親しき友に別れたるころの月、いとなぐさめがたうもあるかな。
あきあはせ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
これから出掛でかける西片町にしかたまちには、友染いうぜんのふつくりした、人形にんぎやうのやうなをんな二人ふたりある、それへ土産みやげにとおもつた。
松の葉 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
短い西片町にしかたまち時代を経て最後の早稲田時代になると、もう文豪としての位地の確定した時代で、作品も前とはだいぶちがった調子のものになってしまっていた。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
名札もろくにはってない古べいの苦沙弥くしゃみ先生のきょは、去年の暮れおしつまって西片町にしかたまちへ引き越された。
僕の昔 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と民弥は、西片町にしかたまちのその住居すまいで、安価やすかまど背負しょって立つ、所帯の相棒、すなわち梅次に仔細しさいを語る。
吉原新話 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
西片町にしかたまちにしばらくいて、それから早稲田南町わせだみなみちょうへ移られても自分は相変わらず頻繁ひんぱんに先生を訪問した。
夏目漱石先生の追憶 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
浩さんは松樹山しょうじゅざん塹壕ざんごうからまだあがって来ないがその紀念の遺髪ははるかの海を渡って駒込の寂光院じゃっこういんに埋葬された。ここへ行って御参りをしてきようと西片町にしかたまち吾家わがやを出る。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
理科大学の二年生で西片町にしかたまちに家を持っていたその頃の日記の一節を「牛頓日記」と名づけて出したことがある。牛頓はニュートンと読むのであるが実に妙な名前をつけたものだと思う。
明治三十二年頃 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
もし文士がわるければことわって置く。余は文士ではない、西片町にしかたまちに住む学者だ。もし疑うならこの問題をとって学者的に説明してやろう。読者は沙翁さおうの悲劇マクベスを知っているだろう。
趣味の遺伝 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その年の春から私は西片町にしかたまちに小さな家を借りてそこに自分の家庭というものを作った。それでいつもはきまって帰省する暑中休暇をその年はじめてどこへも行かずにずっと東京で暮らす事になった。
二十四年前 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)