襟脚えりあし)” の例文
そのきとおるほど白い顔、そのほっそりした襟脚えりあしに気がついて、お品は、あ、うっかり悪いことをいったと心の奥で後悔する。
鳴門秘帖:01 上方の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
庭のきり葉崩はくずれから、カサコソと捲きおこる秋風が呉子さんの襟脚えりあしにナヨナヨと生え並ぶ生毛うぶげを吹き倒しても
振動魔 (新字新仮名) / 海野十三(著)
じッと、くぎづけにされたように、春信はるのぶは、おせんの襟脚えりあしからうごかなかった。が、やがてしずかにうなずいたそのかおには、れやかないろただよっていた。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「五六町追っかけたが、女のくせに恐ろしく足がはええ、——それに御守殿ごしゅでん崩しの襟脚えりあしがめっぽう綺麗だ」
寒いとも暑いともさらに感じなく過ごして来た葉子は、雨が襟脚えりあしに落ちたので初めて寒いと思った。関東に時々襲って来る時ならぬ冷えでその日もあったらしい。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
うしろには綿わたあつい、ふつくりした、竪縞たてじまのちやん/\をた、鬱金木綿うこんもめんうらえて襟脚えりあしゆきのやう、艶氣つやけのない、赤熊しやぐまのやうな、ばさ/\した、あまるほどあるのを天神てんじんつて
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
さも口惜しそうに目を湿うるませた。さすがに生え抜きの江戸育ちの、憤ろしさに抜けるほど白い襟脚えりあしが止む景色なく慄えていた。折柄またパチパチパパパパパと続けざまに小銃の音がはじけてきた。
小説 円朝 (新字新仮名) / 正岡容(著)
けれど日本左衛門も暫くは無言で、彼女の襟脚えりあしを眺めながら、彼女の心を読もうとするものの如き眼ざしであります。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
うしろには綿わたの厚い、ふっくりした、竪縞たてじまのちゃんちゃんを着た、鬱金木綿うこんもめんの裏が見えて襟脚えりあしが雪のよう、艶気つやけのない、赤熊しゃぐまのような、ばさばさした、余るほどあるのを天神てんじんって
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やっと、膝を離れたが、またガックリとうつむいた襟脚えりあしが、夕顔のように、ほのじろい。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
庵室あんじつの客人が、唯今ただいま申す欄干らんかんに腰を掛けて、おくれ毛越げごしにはらはらとなびいて通る、雪のような襟脚えりあしを見送ると、今、小橋こばしを渡ったところで、中の十歳とお位のがじゃれて、その腰へき着いたので
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
白い襟脚えりあしがのびるだけのびて、頭巾のはしがタラリとなやましげに——。
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
着たきぬは雪の下なる薄もみじで、はだの雪が、かえって薄もみじを包んだかと思う、深く脱いだ襟脚えりあしを、すらりと引いてき合わすと、ぼっとりとして膝近だった懐紙かみを取って、くるくると丸げて
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
襟脚えりあし長くたまべて、瑩沢つややかなる黒髪を高く結んだのに、何時いつの間にか一輪のちいさな花をかざしていた、つまはずれ、たもとの端、大輪たいりんの菊の色白き中にたたずんで、高坂を待って、莞爾にっこむ、美しく気高きおもざし
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)