行過ゆきすぎ)” の例文
すそ海草みるめのいかゞはしき乞食こじきさへかどにはたず行過ゆきすぎるぞかし、容貌きりようよき女太夫をんなだゆうかさにかくれぬゆかしのほうせながら、喉自慢のどじまん腕自慢うでじまん
たけくらべ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
我は宿やどかへり足にてはるか行過ゆきすぎたるころれい雪頽なだれおとをきゝて、これかならずかの山ならんとたふげ无事ぶじとほりしをよろこびしにつけ、こゝのあるじはふもとを无難ぶなん行過ゆきすぎ給ひしや
胸糞のわるいこんな札びらは一層いっそこと水に流して、さっぱりしてしまった方がと、おくらの渡しの近くまで歩いて来て、じっと流れる水を見ていますと、息せき切って小走りに行過ゆきすぎる人影。
あぢさゐ (新字新仮名) / 永井荷風(著)
五六間行過ゆきすぎたえなみさんは、何と思つてか半身を柔かくくねらせて振向いた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
て少し不審ふしんの體にて箱番所の前を行過ゆきすぎんとすれば箱番所に控へし番人は聲を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
はらたずか言譯いひわけしながら後刻のち後刻のちにと行過ゆきすぎるあとを、一寸ちよつと舌打したうちしながら見送みおくつてのちにもいもんだもないくせ
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
はらさんと夫より播州さしてぞいそぎける所々方々と尋ぬれど行衞ゆくゑは更にしれざりしが或日途中とちうにて兵助に出會であひしも六郎右衞門は天蓋てんがいかふりし故兵助は夫ともしら行過ゆきすぎんとせしに一陣のかぜふき來り天蓋を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
こゝのあるじに行逢ゆきあひ何方いづかたへとたづねければ稲倉いなくら村へゆくとて行過ゆきすぎ給ひぬ。
笑顏を傾けて行過ゆきすぎるのを、三田は思ひ切つて呼止めた。
大阪の宿 (旧字旧仮名) / 水上滝太郎(著)
腹も立たずか言訳しながら後刻のちに後刻にと行過ゆきすぎるあとを、一寸ちよつと舌打しながら見送つてのちにも無いもんだ来る気もない癖に
にごりえ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)
殺したは勘太郎にちがひないと思つては居れど彦兵衞の親類しんるゐでも有るならば格別かくべつ滅多めつたな人にははなしも出來ず可愛かあいさうに彦兵衞はうかみもらず冥途めいどまよつて居るならんと彦三郎が此所に居るとも知らずうはさして行過ゆきすぎるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
彼処かしこに入る身の生涯せうがいやめられぬ得分ありと知られて、来るも来るも此処らの町に細かしきもらひを心に止めず、裾に海草みるめのいかがはしき乞食さへかどには立たず行過ゆきすぎるぞかし
たけくらべ (新字旧仮名) / 樋口一葉(著)