さなぎ)” の例文
天井の真中には、麻布あさの袋でおおったシャンデリアがさがっているが、ひどい埃のために、まるでさなぎの入っているまゆそっくりだ。
さなぎを用ゐて機械油を作る計画に与つたり(明治二十三年)、さうだと思ふと羽田の穴守に稲荷を祭ることなど率先してゐる。
かまいませんよ。それよりまああのなしの木どもをごらんなさい。えだられたばかりなので身体からだ一向いっこうり合いません。まるでさなぎおどりです。」
チュウリップの幻術 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
しかし、殻から出たさなぎは、新らしい外皮の中に喜んで手足を伸して、自分の新しい牢獄ろうごくの境界をまだ認めるのひまがなかった。
それから繭をつくって、さなぎになったのも居た。僕はそれ等をあつめ、重曹の明瓶などに飼っていたことがある。無論蚤の成虫もつかまえて飼って居た。
(新字新仮名) / 斎藤茂吉(著)
そこで苦し紛れに信州から養殖のはやを取り寄せ、利根で釣れたのですといって誤魔化ごまかしたところ、さなぎ臭いので直ぐ化けの皮が現われたという話である。
水と骨 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
信州でさなぎを喰う鯉を見た時には、何だかいやな気がしたのであるが、今度は余り意外なので全く驚いてしまった。
由布院行 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
「あんなのは、本當にさなぎから出たばかりの蝶々のやうなもので、人間附き合ひをさせて置くのは勿體ない位」
『では、だおまへはそれをらないんだわ』とつてあいちやんは、『でも、おまへさなぎつてから——何時いつかしら屹度きつとわかるわ——それからてふになるときに、 ...
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
「こおろぎでも蛇でも蛙でも、川底の石の下にいるじゃじゃ虫でも、源五郎でも、栗の樹の虫でも蚕のさなぎでもなんでも、……源五郎虫なんかとても香ばしくって」
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
さなぎが蛾となって飛廻るためには、今迄自分の織成した美しい繭を無残に喰破らねばならぬのである。
光と風と夢 (新字新仮名) / 中島敦(著)
蚕がさなぎとなる前にまず繭を造ってそのうちに隠れるごときはすなわち本能の働きであるが、これらは一生涯にただ一回よりせぬことゆえ、前もって稽古けいこするわけでもなく
脳髄の進化 (新字新仮名) / 丘浅次郎(著)
幼虫時代は、醜い青虫の時代であり、成長のための準備として、食気くいけ一方に専念している。そして飽満の極に達した時、繭を作ってさなぎとなり、仮死の状態に入って昏睡こんすいする。
老年と人生 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
蚯蚓みみず蜈蚣むかでになったと載せ、『和漢三才図会』に、蛇海に入って石距てながだこに化すとあり、播州でスクチてふ魚海豹あざらしに化すというなど変な説だが、うじが蠅、さなぎとなるなどより推して
毛虫は木の芽や草の葉ばかり食べて、それからさなぎになり、も一度生れ変つてきれいな蝶や蛾になりますけれど、少しも人の益になることをしません。だから殺してもいいと思ひます。
原つぱの子供会 (新字旧仮名) / 槙本楠郎(著)
ぢぢむさいさなぎが化けて羽のきいろい足長蜂となると、尻つ尾の先に剣をつけるやうに、中村雄次郎だんは、満鉄総裁から関東都督に職業替へをしたばつかりに、一旦予備役よびえきになつた身で
その間繭は、誰れかゞ糸を引つぱつた時の毛糸の玉のやうに熱い湯の中で跳ねてゐる。糸の薄くなつた繭の真中には、火で焙り殺されたさなぎがゐる。その後で絹はいろ/\な作業に遭ふ。
まゆに籠っていたさなぎかわり、不随意に見えた世界を破って、随意自在の世界に出現する。考えてみればこの急激な変貌のおそろしさがよく分る。受身であった過去は既に破り棄てられた。
真綿はまゆ曹達ソーダでくたくた煮ていとぐちさぐり、水にさらしてさなぎを取りてたものを、板にしてひろげるのだったが、彼女はうた一つ歌わず青春の甘い夢もなく、脇目わきめもふらず働いているうちに
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
さなぎでも食って生きているような感じだ。妖怪ようかいじみている。ああ、胸がわるい。
愛と美について (新字新仮名) / 太宰治(著)
一匹の、まださなぎから出たばかりであるらしい蠅が、摺ガラスにつかっては、弱い羽音を立ててりました。その時私は女の黒髪を掻き分けて、耳から耳に、頭上を横断してメスを入れました。
三つの痣 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
剥がれて、剥がれて釜の底に沈んで行くさなぎを見ると
工女の歌 (新字新仮名) / 丹沢明(著)
毛虫やさなぎの時から分かる。若々しい6730
さなぎから蝶への大飛躍をげたのは、実に三十二歳の時で、その年彼の歌劇「王と坑夫」が国民劇場で上演され、さらに国民的な要素を持つ交響曲が発表されて彼の名は次第に高められ
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
窮屈なさなぎの中から、すばやく羽を広げて
さなぎのようになっておいでなさるこのかた