花瓶はながめ)” の例文
庫裡の炉の周囲まわりむしろである。ここだけ畳を三畳ほどに、賽銭さいせんの箱が小さくすわって、花瓶はながめに雪をった一束のの花が露を含んで清々すがすがしい。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
されどドレスデンの宮には、陶もののといふありて、支那シナ日本の花瓶はながめたぐいおほかたそなわれりとぞいふなる。国王陛下へいかにはいま始めて謁見えっけんす。
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
呉羽之介は片里の言葉に聴き入りながらに机辺つくえべ花瓶はながめの、緋いろに燃える芍薬しゃくやくの強い香りに酔ったような目付になりました。
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
くもりなき水晶の花瓶はながめや、可笑おかしげにふくらみて、二人の顔のうつりたる、まろその横腹のおもてには、窓なる額縁に限られて、森の茂りと、古里ふるさとの空のこそえがかれたれ。
だ私の詩集が八冊程花瓶はながめの前へ二つに分けて積まれてあるのだけは近頃からのことであると思ふと云ふのです。本の彼方此方あちこちには白い紙がしおりのやうにしてはさんであると云ふのです。
遺書 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
愛の花瓶はながめよ、もろ/\の男子のうへに、諸のつめたき學術のうへ
(旧字旧仮名) / アダ・ネグリ(著)
花瓶はながめすゑ白磁しろで瞟眼ひがめして
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
床のれぬ、花瓶はながめ
如是 (新字旧仮名) / 末吉安持(著)
はなよりしろき花瓶はながめ
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
たく置暖炉おきストオブ花瓶はながめ
花瓶はながめの水——
独絃哀歌 (旧字旧仮名) / 蒲原有明(著)
されどドレスデンの宮には、陶ものの間というありて、支那日本の花瓶はながめたぐいおおかた備われりとぞいうなる。国王陛下にはいまはじめて謁見えっけんす。
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
その花瓶はながめだが、私は陶器など一向で……質も焼も、彩色も分らない。総地の濃いあいに、桔梗ききょう女郎花おみなえしすすきは言うまでもなく、一面に秋草を描いた。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
眠りたる花瓶はながめの底に朽ちて行く。
のひとつなる花瓶はながめ
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
眞玉まだま花瓶はながめもろに
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
和蘭オランダ焼の花瓶はながめ
晶子詩篇全集拾遺 (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
二足三足ふたあしみあしつきてゆけば、「かしこなる陶物すえものの間見たまいしや、東洋産の花瓶はながめに知らぬ草木鳥獣など染めつけたるを、われにきあかさん人おん身のほかになし、いざ」
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)
のぞくまでの事はない。中でも目に立った、落着いて花やかな彩色いろどり花瓶はながめ一具ひとつ、まだ飾直しもしないと見えて、周囲一尺、すぽりと穴のあいたようになっているのだから。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
茎も葉も枯れてしまつた花瓶はながめ
うれひをふくむ花瓶はながめ
藤村詩抄:島崎藤村自選 (旧字旧仮名) / 島崎藤村(著)
二足ふたあし三足みあし附きてゆけば、「かしこなる陶物すえもの見たまひしや、東洋産の花瓶はながめに知らぬ草木鳥獣など染めつけたるを、われにきあかさむ人おん身のほかになし、いざ、」
文づかひ (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
私は、ここに橘八郎の舞台についてはいたずらに記事を費すまい。草の花に露店の絵の花瓶はながめを写した、陶器に対すると同じ知識の程度では、専門の能職に対して気の毒だと思う。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここは四方よもの壁に造りつけたる白石のたなに、代々の君が美術に志ありてあつめたまいぬる国々のおお花瓶はながめ、かぞうる指いとなきまで並べたるが、のごとく白き、琉璃るりのごとくあお
文づかい (新字新仮名) / 森鴎外(著)