にかは)” の例文
しかしもう隅々には薄汚いカンヴアスをあらはしてゐた。僕はにかは臭いココアを飲みながら、人げのないカツフエの中を見まはした。
歯車 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
八五郎が持つて來たのは、紺糸こんいと柄卷つかまきをした、手頃の脇差が一とふり。血だらけの拔刄ぬきみのまゝで、その血がにかはのやうにねばり附いてゐるのも無氣味です。
其処そこ彫像てうざうわきいて、からかさこしえると、不思議ふしぎや、すそひらかず、かたらず……にかはけたやうに整然ちやんつた、同時どうじにくる/\とからかさまはつて、さつさとく……
神鑿 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
貫一は唯不思議の為体ていたらくあきれ惑ひてことばでず、やうやく泣ゐる彼を推斥おしのけんと為たれど、にかはの附きたるやうに取縋りつつ、益す泣いて泣いて止まず。涙の湿うるほひ単衣ひとへとほして、この難面つれなき人のはだへみぬ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
にかは煮て銀泥ぎんでいかす日の真昼何かしかひそむくらきけはひはも
雀の卵 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
琴柱ことぢにかはして音を求むるの陋を免れぬのである。
努力論 (旧字旧仮名) / 幸田露伴(著)
中から選り出したのは、枝のない竹が一本、長さ六尺ほど、尖端さきは泥に塗れて、黒ずんだにかはのやうに見えるのは、紛れもない血の古くなつたものです。
げん其處そこいだともかたれるは、水深すゐしんじつ一千二百尺いつせんにひやくしやくといふとともに、青黒あをぐろみづうるしつて、かぢすべにかはし、ねば/\とかるゝ心地こゝちして、ふねのまゝにひとえたいはくわしさうで
十和田の夏霧 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
「あのお樂と來た日には大變さ。唯もうネツトリして、にかはでねつて、鳥黐とりもちでこねて、味噌で味を付けたやうだよ」
引出して見ると、血に染んで黒ずんだ眞田紐が、にかはが中から引上げたやうに、ベツトリ疊の上へ這ひます。
剃刀は二梃ともよく使ひ込んだもので、背と背を合せて、元結もとゆひでキリキリと縛つてありますが、斑々はん/\たる碧血へきけつが、にかはのやうに附いて見るからに無氣味なものです。
「額にはめた夜光石の、はめ込んだ根のあたりは、ひどく荒されて、にかはぬりか知らないが、珠を留めたものが、——この通り、粉のやうに床の上にこぼれて居ます」
土藏の土臺石には、大した血の跡のなかつたのは、多い髮を浸して、にかはのやうになつたためでせう。
にかはのやうに乾きかけて居ましたよ」