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紺糸
八五郎が持つて來たのは、
紺糸で
柄卷をした、手頃の脇差が一と
口。血だらけの
拔刄のまゝで、その血が
膠のやうに
粘り附いてゐるのも無氣味です。
紺糸の
黒皮のよろい、白地きんらんの陣羽織、かぶとは鹿の
角の前立ち、それを背投げに負い、
頭は、なお癒えぬ戦傷を、まるで
白頭巾のように、頬へかけて、巻いていた。
前の広庭には高い物干し竿が
幾列びにも順序よく並んでいて、朝から
紺糸がずらりとそこに干しつらねられる。糸を
繰る
座繰りの音が
驟雨のようにあっちこっちからにぎやかに聞こえる。