)” の例文
「中を調べるなら、ふたをあけてお見せするで、待ってくらっせえ。槍などで樽に穴をけられたら、味噌がえてしまうでねえか」
旗岡巡査 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
摺鉢すりばちに箒が立っていたり、小丼こどんぶりに肌着がかぶせてあったり、そして、えたような塵埃のにおいが柱から畳と部屋じゅうにしみわたって
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
一足外に出ると、外はクラクラするような明るさでとがり切った神経の三人は、思わずよろよろっと立止ってしまった。太陽はえた向日葵ひまわりのように青くさく脳天から滲透しみとおった。
「いかになりゆくやら。——要するに水戸もえた時代の外ではあり得ないというに尽きる。世は元禄——ここも元禄の世間のうちだ」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
門ともいえぬ形ばかりの入口には、大きな柿の木の若葉が繁茂していて、そこらの日蔭の湿地には青白い花屑やがくがいッぱい散りえていた。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
表面、脆弱ぜいじゃくに見える国でも、内部は案外、充実している国もあるし、権威富力の大きく見えている強国でも、案外、中のえている国もある。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だのに、江戸はこの頽廃たいはいぶりだ。幕府は無能だ。——誰が、神国のこの危機を救うか。われわれはもう、えた幕府などはとうに見捨てている。
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
だから彼の頭は、そのえたる文化の中にうごめくうじについてなど考えているいとまがなかった。一足跳びにすぐ
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あわれ八十になんなんとする老齢頼政の力では、ちたる六波羅といえ、くつがえすには至りますまいが、わたくしが起てば諸国の源氏が奮い起ちましょう。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
北条幕府のえや秕政ひせいは、世の周知である。——と、するかの如く、高氏の眉がびくともしないのを見ると
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
赤穂浪士の為した事は、自己の義を立つるにあるにせよ、今のえきった世態と人心に大きな反省を与えておる、すくなくも、時勢の眼をあらためさせておりまする。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれの任務は、時節のくるまで、世相を不安と頽廃たいはいとに、あとうかぎり、ただらせてしまうことにある。
大岡越前 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
有り余るものは、えたる脂粉しふんのにおいである。ぬめにしきや綾にくるまれたとげである。珠に飾られた嫉視しっしや、陥穽かんせいである。肉慾ばかり考えたがる彼女らの有閑である。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
余りにえた現状生活に対しての自省と、憂いと、甦生こうせいの精神から出ていることは一つである。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わしの生命いのちは強い。この大自然の中で山野に呼吸いきしている者だ。——平家の生命は、組み立てられた第宅ていたくや人智の機構を力とし、しかもそれはえかけている末期まつごのものだ。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朝廟ちょうびょうのうちには、このところ、不穏なうごきが見えぬでもない。権臣の陰謀だの、皇后を廃して追うなど、咲きれた花のえが、そろそろ、自然の凋落ちょうらくを急ぐかに思われた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
えたる国の自壊じかいが始まったのである。年を越えて、ことし弘治二年の四月、浅ましき父子の合戦は、岐阜ぎふの里、長良川ながらがわほとりを、業火ごうかの炎と、血みどろのちまたにして闘い合った。
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「その日には、おそらく、おん許のような純なお人は、あきれ返るに違いない。これが天下の首府かと、鎌倉のえたるみにくさに、今から、驚かれぬご要心でもしておかれぬとな」
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
江戸文化の終りに来ている頽廃的たいはいてきな風は、吉原に、陰間茶屋かげまぢゃやに、歌舞伎町に、役人の裏面に、町人の遊蕩に、鼠小僧の出没に——いろいろな社会層へわたって、えたる物の美しさと
山浦清麿 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この地上は、それ故に、どんなに乱れえても、見限ってはいけません。わたくしはいつもそれを信じている。ですから、どんなに悪魔的世相があらわれても、決して悲観しません。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
陽春の花もいつかえ散って、この陽穀ようこく県の街にもぬるい暖風が吹き初めていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そういう時世の中にあって、浅野家だけは、ひっそりと、質素しっそであった。名儒、山鹿素行やまがそこうの感化も大いにあったし、藩祖以来の素朴な士風が、まだ、元禄のえた時風に同調していない。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「あまりよどんでいる水には、えた物ばかりいて、水草は咲きません」
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼の性格が、最もみ嫌うところの、陰鬱いんうつな領民、暗黒な領主、骨肉の相剋そうこく、清新のない文化など、えたる土壌の国に、何の未練もなく、そこを後に国外へ急いで去ったことも確実であろう。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
滿地にえて、黄熟した果肉の醗酵にアブや蜂が、醉ひ舞ふのだつた。
折々の記 (旧字旧仮名) / 吉川英治(著)
答「ならば旧態のままでよいか。それも不断に進む世の自然に反します。行き詰りの世が腐りだすと、腐り放題にえてゆく。いやでもまたその無秩序や不平が恐ろしい不安をかもして来ますのでな」
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
幕閣の吏員りいんも、町人たちも、侍も、想像外に、えきっております。むろん、武士道などは、寛永元和の頃に、置き忘れてしまっています。威を張るのは、ただ金です。その金を支配する大町人です。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
まかすべき しこえに
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)