脱出ぬけだ)” の例文
「わたし何だか急に来て見たくなつて、そつ脱出ぬけだして来たの。まさかこんなに遠い処とは思はないでせう、来てみて驚いてしまつたわ。」
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
「出た者は一人も無かつた筈です。でも若い人達は時々夜遊びに出かけますから、時々はそつと脱出ぬけだすやうで、私共にはよくわかりません」
それから十四のとしにO市の感化院を脱出ぬけだして無一文で女郎買いに行った。ドッチも喜ぶ話だから多分、無料ただだろうと思って行ったのが一生のアヤマリ。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
便利あり、利益ある方面に向って脱出ぬけだした跡には、この地のかかる俤が、空蝉うつせみになり脱殻ぬけがらになってしまうのである。
三尺角 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
彼が脱出ぬけだして来た小屋を沢庵は知っていた。又八の耳たぶを持ちながら、沢庵は小者たちの寝ている所をのぞ
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
是から人の引込ひっこむまでと有助は身をかゞめて居りますと、上野の丑刻やつの鐘がボーン/\と聞える、そっと脱出ぬけだして四辺あたりを見廻すと、仲間衆ちゅうげんしゅうの歩いている様子も無いから
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
或る晩の事、自分は相變らず、そつうち脱出ぬけだして、門の外まで出ると
水郷 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
敬吉一人を頼りにして、故郷を脱出ぬけだして、下宿屋の汚い部屋で、今迄惨じめな、苦しい生活を忍んで来たのが、敬吉に帰国を迫られた為到頭死を覚悟した女の心持が、敬吉の頭の中へ力強く反映した。
海の中にて (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
ところで犯人も到底とうていしれずにはいまいと考え、ほとぼりのさめた頃京都市を脱出ぬけだして、大津おおつまで来た時何か変な事があったが、それをこらえて土山宿つちやまじゅくまでようや落延おちのび、同所の大野家おおのやと云う旅宿屋やどやへ泊ると
枯尾花 (新字新仮名) / 関根黙庵(著)
便利べんりあり、利益りえきある方面はうめんむかつて脱出ぬけだしたあとには、こののかゝるおもかげが、空蝉うつせみになり脱殼ぬけがらになつてしまふのである。
三尺角 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
五人の中で悧口りこうな信太郎は、隙を見て土藏を脱出ぬけだしましたが、村右衞門におどかされた言葉が恐ろしくて祕密をもらす間もないうち、鑄掛屋いかけやの權次にさそひ出され
……それでヒョッと貴様が、昨夜ゆんべのうちに金を探し出いて、ここへ来はせんかと思うて、死ぬる思いで、暗いうちに病院を脱出ぬけだいて、塀を乗越いて、ここへ来たんだぞ。
オンチ (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そこが因果で別れることも出来ないところから、この両人ふたりはそののうちひそかに根岸を脱出ぬけだし、綾瀬川へ身を投げて心中した。死骸が翌朝よくあさ千住大橋際へ漂着いたしました。
「いつ城を脱出ぬけだしたか」
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「それは間違いの無いことだ、音響殺人が不可能なよりも、博士が研究室を脱出ぬけだす方が不可能だ」
音波の殺人 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
何うぞして脱出ぬけだしたいと只一心に伯父の隙をねらって居りますが注意に怠りはございません。
灯をともした栄螺さざえだの、かぶとを着た鯛だの、少しわいせつなたこだのが居る中に、黄螺の女房といってね、くるくると巻いたすそを貝から長々といて、青い衣服きもの脱出ぬけだした円髷まるまげが乱れかかって、その癖
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それが白い羽根付きの黒いお釜帽かまぼうからカールをハミ出させて、白靴下のハイヒールの上にスラリとり返って、ふち無しの鼻眼鏡をかけたところは、ハンカチの箱から脱出ぬけだして来たような日本美人だ。
超人鬚野博士 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
そして、ほんの少しばかりの旅費だけを持って、何一つ手廻りの品も持出さずに、そっと南伊豆の別荘を脱出ぬけだし、一気に北海道の奥の奥、十勝平原の隠れ家へ飛んだのです。
其の晩に脱出ぬけだして、の早四郎という宿屋の忰が、馬子まご久藏きゅうぞうという者の処へ訪ねて参り
菊模様皿山奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
空色のあわせに襟のかかった寝衣ねまきなりで、寝床を脱出ぬけだしたやつれた姿、追かけられて逃げる風で、あわただしく越そうとする敷居に爪先つまさきを取られて、うつむけさまに倒れかかって、横に流れて蹌踉よろめく処を
政談十二社 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いずれ御病死のとどけをすることになるだろう、——お前は此処ここから脱出ぬけだして、村々の自訴を止めるのだ。よいか、阿武隈の御家を取潰しても、百姓町人がぐ幸せになるとは限るまい。
と根強く掛合込かけあいこみまして、お由にはなか/\断りきれぬ様子でありますから、茂二作は一旦脱いだ羽織を引掛ひっかけ、裏口からそっ脱出ぬけだして表へ廻り、今帰ったふりで門口を明けましたから
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「例へば、お姉樣がどうして殺される前の晩戸締りをしてある家から脱出ぬけだしたか、——いや、お姉樣が脱出した後、誰が戸締りをしたか。第一それからしてわからないぢやありませんか」
己が六間堀へ行ってる留守に黙って脱出ぬけだしたんだから、不思議でならねえ
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
江の島まうでの一行が、暴風雨の爲に棧橋さんばしが落ちて島に閉ぢ籠められ、そのうちの一人、徳力屋千之助が、雨の止んだ深夜の海の凄まじい樣子を見物すると言つて宿を脱出ぬけだし、數百尺の大斷崖から落ちて
兼「だッて親方わっちの居ねい留守に脱出ぬけだしちまッたんです」
名人長二 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
「床から脱出ぬけだして、其邊に」