総髪そうはつ)” の例文
旧字:總髮
遊女の贋手紙夫れから塾中の奇談をうと、そのときの塾生は大抵たいていみな医者の子弟だから、頭は坊主か総髪そうはつで国から出て来るけれども
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
おのれえりがみをつかんでいるのは、二十七、八の小男であった。若い侍のくせに、髪を総髪そうはつにして後ろへ垂れ、イヤにもったいぶった風采ふうさい
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
浪人とも修験者しゅげんじゃとも得体の知れない総髪そうはつの男が、山野風雨の旅に汚れきった長半纒ながはんてんのまま、徳利を枕に地に寝そべって、生酔いの本性たがわず
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
またいろひとるようにつよくらい相違そういで、そしてその総髪そうはつにしたあたまうえにはれい兜巾ときんがチョコンとってりました。
爾時そのときは、総髪そうはつ銀杏返いちょうがえしで、珊瑚さんご五分珠ごぶだま一本差いっぽんざし、髪の所為せいか、いつもより眉が長く見えたと言います。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
髪は女工のして居るやうな総髪そうはつ梳髪すきがみなのでした。紡績絣の袷を素肌に着て、半幅の繻子の帯をちよこなんと結んで、藍地の麻の葉のメリンスの前掛をして居ました。
女が来て (新字旧仮名) / 与謝野晶子(著)
しばらくたつと、また隔ての襖が二寸ほど開いて、じっとこっちを見たのは眼の大きいかおの色の赭黒あかぐろ総髪そうはつの男であったが、今度はとくと竜之助の面を見定めてから、また襖を締め切り
榊原藩でございますと云ったそうだが、面部かおに疵を受けた、総髪そうはつえらい奴で
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
総髪そうはつの先を切った妙な茶筅髪ちゃせんがみ
平賀源内捕物帳:萩寺の女 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
そのゆるい足音が流れてゆく石畳の道を、目に立つ自来也鞘じらいやざやと、十夜頭巾と、異風な総髪そうはつが、大股に、肩で風を切って行った。
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
やがて頭巾を取ると総髪そうはつ撫付なでつけで、額には斯う疵がある、色黒くせい高く、これからこれ一抔いっぱいひげが生えているたくましい顔色がんしょくは、紛れもない水司又市でございますから、親の敵とすぐ討掛うちかかろうと思ったが
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
門からのぞくと、庵室あんしつのなかには、白髪童顔はくはつどうがんおきなが、果物で酒をみながら、総髪そうはつにゆったりっぱな武士ぶしとむかいあって、なにかしきりに笑いきょうじている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、総髪そうはつの若いほうが睨みつけたが、ここは野暮を嫌う色町でもあり、かたがた軒を並べているいろは茶屋の暖簾口のれんぐちには、脂粉の女の目がちらほら見えるので
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひとりは熊谷笠くまがいがさをかぶり、ひとりは総髪そうはつ、そのうしろには、底光りのする眼をもった黒頭巾黒着くろぎの武士。
鳴門秘帖:03 木曾の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
総髪そうはつの毛が寝くたれて、にきびだらけの顔の脂肪あぶらにこびりつき、二日酔いの赤い目を、渋そうにしばたたいたかれの顔は、けだし女性に好意をもたれる顔でなく
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、誰かの跫音あしおとが、後ろを抜けた様子なので、ヒョイと振りかえってみると、総髪そうはつにした若い侍が、いきなり拝殿の前へ寄って、気絶しているお千絵の体へ手をかけた。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
総髪そうはつにして野袴のばかまに草色の革足袋かわたびをはき、汗をこすりこすり近づいてくる。浪宅は本所中之郷なかのごうという事だから、そこからここまでは近い道程みちのりではない。かくしゃくとしているのだ。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ひとりは頭巾をつけ、ひとりは総髪そうはつ。どちらも大名の前に出られる風姿なりではない。
鳴門秘帖:05 剣山の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)