たも)” の例文
千三百年のいにしえ、太子がこもらせたもうた御姿を想像し、あの暗澹あんたんたる日に美しい黎明を祈念された太子が、長身に剣をしかと握りしめ
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
今生こんじょうの 果報かほうえて 後生たすけさせたもうべく候 こんじょうの果報をば 直義にたばせ候て 直義を安穏あんのんに まもらせ給い候べく候
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
摩耶夫人まやぶにんもマリヤもこうして釈迦や基督を生みたもうたのである、という気持になって、上もない歓喜よろこびの中に心も体も溶けて行く。
産屋物語 (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
八幡はちまん、これにきまった、と鬼神がおしえたもうた存念。且つはまた、老人が、工夫、辛労しんろう、日頃のおもいが、影となってあらわれた、これでこそと、なあ。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(三)ナニ僕より角の多いやつがおる。馬鹿いいたもうな。およそ世界わ広しといえども、僕より余計に角をもった奴わないはずだ。
三角と四角 (その他) / 巌谷小波(著)
実に幸なことには、新古今時代の歌人たちの努力を、若き後鳥羽院はよみたもうた。このようなことは、近世この方殆どなくなってしまったのである。
中世の文学伝統 (新字新仮名) / 風巻景次郎(著)
「たぐひありと誰かはいはむすゑにほふ秋より後のしら菊の花」と申す古歌の心にて、白菊と名づけさせたもう由承候。
僕の耳には亡父なきちち怒罵どばの声が聞こえるのです。僕のには疲れはて身体からだを起して、何も知らない無心の子をいだき、男泣きに泣きたもうた様が見えるのです。
運命論者 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
「それには及びませぬ……しかし、曾光尼そこうに、あの、わしが留守の間をよく気をつけてたもれ」
大菩薩峠:15 慢心和尚の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
君、怒リたもウコトなかレ。コノ失礼ヲ許シ給エ。我輩ハアワレナ男デアル。ナゼナラバ、我輩ハ英語ニイテ、聞キトルコトモ、言ウコトモ、ソノホカノコトモ、スベテ赤子あかごごとキデアル。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
神天地をつくりたもうたとのつくるというようなことばは要するにわれわれに対する一つの譬喩ひゆである、表現である。マットン博士のように誤った摂理せつり論を出さなくてもよろしい。畢竟は愛である。
ビジテリアン大祭 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
国家のために軽々しく龍体りゅうたいを危うくされたもうまいとおもんぱからせられたとか。
夜明け前:02 第一部下 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
女「愛したもうや?」
かくあれかしと衷心より念じたもうた言葉であって、その一語一語に、太子の苦悩と体験は切に宿っていると拝察される。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
と、かなたでよろこぶ群集ぐんしゅうの声々、八百万やおよろず神々かみがみ神楽かぐらばやしのように、きょうたもうやと思われるばかりに聞える。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
囀る雲雀、流れる清水、このおっちょこちょいを笑うたもうな。
パンドラの匣 (新字新仮名) / 太宰治(著)
これが太子の追究された大乗の急所であったと僕は信じている。太子が救世菩薩として仰がるる所以ゆえんは、救いや解決を現世に与えたもうたからではない。
大和古寺風物誌 (新字新仮名) / 亀井勝一郎(著)
「……妙子たえこっ、妙子っ。……どうしやったのじゃ。気をたしかにしてたもい」
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
父子二代の積悪せきあくはたして如来にょらいの許したもうやいなや。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)