紛擾ふんじょう)” の例文
産業上の諸階級間の不平、政党各派の紛擾ふんじょう輿論よろんの神経過敏、経済上の諸調査の専心に行なわれつつあること等はすなわちそれである。
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
岡君は人にもらし得ない家庭内の紛擾ふんじょうや周囲から受ける誤解を、岡君らしく過敏に考え過ぎて弱い体質をますます弱くしているようです。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
石ころ同然の手遊人形一つを証拠証拠と、左様のものを楯にとって、家中に紛擾ふんじょうを起して、それが、心得ある家来の所作か——
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
磯五は、お駒ちゃんの蒼い顔と、おろおろと開かれた両眼に見入って、そこに避けられない近い将来の紛擾ふんじょうを読み取っていた。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
市九郎は、この紛擾ふんじょうが無事に解決が付くと、それによって徒費した時間がいかにも惜しまれるように、にじりながら洞窟の中へ入っていった。
恩讐の彼方に (新字新仮名) / 菊池寛(著)
草山口論ということをつづめて、「山論さんろん」という言葉で通って来たほど、これまでとてもその紛擾ふんじょうは木曾山に絶えなかった。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そしていま迄、下手したで謙遜けんそんに学び取っていた仕方は今度からは、争い食ってかかる紛擾ふんじょうの間に相手からぎ取る仕方に方法を替えたに過ぎなかった。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
大隈おおくま伯が高等商業の紛擾ふんじょうに関して、大いに騒動しつつある生徒側の味方をしている。それが中々強い言葉で出ている。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もし下稽古があまり進んでいなかったら、そして紛擾ふんじょうの起こる恐れで制せられていなかったら、クリストフはすべてをほうり出したかもしれなかった。
「石狩ハ全道ノ中央ニアリ、四方ヲ控制スルニ便ナルヲ以テ、鎮府ヲココニ建テ、分散紛擾ふんじょうノ弊ナク、北虜駸々しんしん日ニ進ムノ勢ヲ抑ヘテ北門ノ鎖鑰さやくハジメテ固カラン」
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
現代社会の紛擾ふんじょうからその身を遠ざけ、骨董こっとうの鑑賞と読書とに独善の生涯を送っていたのである。
ひかげの花 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
各種の紛擾ふんじょうの絶え間のない両者の間に、また一つの紛擾の種をいたようなものであったが、外に適当な場所もなく、浄化装置の市立汲棄場が間もなく出来ることになって居り
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
しかるに一方においては、かくの如く国論沸騰、廟議紛擾ふんじょうその統一を失うたるに際して、他方においては、宿約たる安政五年三月五日調印の期日を失し、遂に遷延せんえん五月二日に至り
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
家中の動揺と混乱はひじょうなものだったが、幸い世を騒がすような紛擾ふんじょうも起こらず、多くの者が或いは志す寄辺よるべを頼り、また他家へ仕官したりして、思い思いに城下を離散した。
日本婦道記:二十三年 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
八百長紛擾ふんじょう、焼打、そうかと思うと女子競輪などゝ殺気の中に色気まであり、百聞は一見にかずと食指をうごかしていたが、伊豆の辺地に住んで汽車旅行がキライときているから
始まってしかもなかなか終りそうもないこの紛擾ふんじょうの時代においては、ことにいつにもましてクリストフが、ぜひとも生きそして愛するの喜びを鼓吹する強い忠実な友であらんことを!
そうした地盤の事や何かで弟子仲間に紛擾ふんじょうが起れば、無論家元が裁判せねばならぬ。
能とは何か (新字新仮名) / 夢野久作(著)
前者は出づることを得ず、後者は急に出でんとす。営中紛擾ふんじょうし、人馬滾転こんてんす。燕兵急に之を撃って、遂に営を破り、衝撃と包囲と共に敏捷びんしょうを極む。南軍こゝに至って大敗収むからず。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
紛擾ふんじょうをきわめている一方では、徳川方とくがわがたのそんな奸計かんけいを、ゆめにも知ろうはずがない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すでに名義の如何いかんにかかわらず、人を殺すことは罪悪である以上、人を殺すの戦争は一日も早くこれを廃し、他の方法に依って国際間の紛擾ふんじょうを解決せねばならぬ。これが即ち理想である。
余が平和主義の立脚点 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
家中の違和に非理をたてようとすると、かえってわざわいを大きくするということを、これまでの例で身にみて承知した。争うことは内輪の紛擾ふんじょうを外部に発表する愚を招くだけでしかない。対立は禁物だ。
鈴木主水 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
彼が心中ひそかに、そうした家庭の紛擾ふんじょうに、なんとかしてけりがついてくれればと、ひたすらそれを気づかっていたのは疑いもないことである。とはいえ、彼のおもなる懸念は長老の身の上であった。
ただ政治に関する事柄は例外だった——というのは、その辛辣しんらつな自由の振る舞いが、町の当局者と他国の代表者らとの間に、何度も紛擾ふんじょうの原因となったからである。
紛擾ふんじょうの事、ひとところに長くとまつてゐられぬ事、学科以外に柔術の教師をした事、ある教師は、下駄のだいを買つて、鼻緒はふるいのを、へて、用ひられる丈用ひる位にしてゐる事
三四郎 (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
母親は内縁の若い後妻で入籍して無かったし、寺には寺で法縁上の紛擾ふんじょうがあり、寺の後董ごとうは思いがけない他所よその方から来てしまった。親子のものはほとんど裸同様で寺を追出される形となった。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
家庭内の紛擾ふんじょうをもらしていた。かれも苦しんでいる。一緒に今井から葛西の方を三時間ほど歩いた。余がくじけていると思って見舞って呉れたのだ。ああ、妻君の心尽しとかで水餅を持って来て呉れた。
「家中に、紛擾ふんじょうが起きている」
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
その荘麗な混乱と正確な紛擾ふんじょうとは、今は誠実を欠いてるかのように彼の気色を害した。
紛擾ふんじょうの事、一つ所に長くとまっていられぬ事、学科以外に柔術の教師をした事、ある教師は、下駄げたの台を買って、鼻緒はなおは古いのを、すげかえて、用いられるだけ用いるぐらいにしている事
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「へえ……ひどく紛擾ふんじょうしそうな話だの」
無頼は討たず (新字新仮名) / 山本周五郎(著)