紐育ニューヨーク)” の例文
私は今、紐育ニューヨークの町中に居る。私の足の下には靴の皮がある。キルクの床がある。石とコンクリートの下には、アメリカの土がある。
無題 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
孝助は紐育ニューヨークで「フード・センター」という野菜果物の大きな店をやっていた成功者の一人で、五人の子供はみなアメリカで生れた。
ノア (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
紐育ニューヨークの博物館には、人造人間の番人が居て観覧人が入って行くと、「どうぞ、記録帖に、御記名下さい」と呼びかけて来るそうである。
人造物語 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私が階下に花田君子の靴音を聞いたころ、友人の横田は紐育ニューヨークの女優メイ・マアガレッタの男妾おとこめかけとして外科的な名誉と人気をかち得ていた。
恋の一杯売 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
『ホノルル・桑港サンフランシスコ・ニウメキシコ・市伽古シカゴ・ナイヤガラ・紐育ニューヨーク・巴里・倫敦・エデンバラ・ストラットフォウドオンアヴォン。』
紐育ニューヨークに滞留して仏蘭西人の家に起臥すること三年、珈琲と葡萄酒とは帰国の後十幾年に及ぶ今日迄遂に全く廃する事のできぬものとなった。
砂糖 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
現今流行し出した釣車リールにしても、紐育ニューヨークの海岸とか、日本の北海道ではよいかも知れないが、先づ微妙な魚を釣るには適さない。
日本の釣技 (新字旧仮名) / 佐藤惣之助(著)
女史は私の紐育ニューヨーク時代からの友人であった画家柳敬助君の夫人で当時桜楓会の仕事をして居られた。明治四十四年の頃である。
智恵子の半生 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
そうして死なんばかりに狂い嘆くノブ子に嬢次の行方を探してやるのだからと云い聞かせて、東部、紐育ニューヨークに連れ出しました。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
カポネをギャング界に送り出したのは紐育ニューヨークの親分エールで、「カポネ、おめえ、市俄古シカゴの親分コロジモのところへ行って、用心棒にでもなりな」
世界の裏 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
すなわち紐育ニューヨーク倫敦ロンドン巴里パリーに行った。そしてこれらの大都市の生活が科学的であるだけ、それだけ犯罪を行うにはいかにも都合がよいと思った。
科学的研究と探偵小説 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
折って紐育ニューヨーク計り探していたが、有難い事だ。運が向いてきたんだ。厭でも応でも今度こそ結婚して貰わなくちゃアならない
日蔭の街 (新字新仮名) / 松本泰(著)
すると市場に於ける棉布の購買力が上り出した。外品の払底が続き出した。紐育ニューヨークとリバプールと大阪の棉製品が昂騰した。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
こういう話をとり交しているうちに、九月に紐育ニューヨークで会った時の、湯川さんの顔、奥さんや子供さんたちのイメジが、私の頭の中に、ありありと蘇ってきた。
湯川秀樹さんのこと (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
手紙は、その年の七月五日付で、米国の紐育ニューヨークから投函されたもので、彼女の手に渡ったのは七月十四日の事だった。
少年がわざわざそのために紐育ニューヨークから出かけて来たことを話すと、「そうか。」と言って、明るく笑っていた。
艸木虫魚 (新字新仮名) / 薄田泣菫(著)
競馬季節シーズンになった紐育ニューヨーク社交界では、晩餐ばんさんの集まりでも、劇場ででも、持馬をもったものはいうに及ばず、およそ話題は、その日の勝馬のことで持ちきっていた。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
米国からは、あまり乗気でもないが、来るなら紐育ニューヨークブルックリンの看護婦学校に口があると知らして来た。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
この松王は欧洲でも上場されたことがあり、米国では紐育ニューヨークではじめて上場されたのですが、その演出法が和洋折衷で面白くないというので不評であったそうです。
米国の松王劇 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
蒸気車にのってあの地峡ちきょうえて、向側むこうがわに出て又船に乗て、丁度三月十九日に紐育ニューヨークに着き、華聖頓ワシントン落付おちついて、取敢とりあえず亜米利加の国務卿にうて例の金の話を始めた。
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
エツコさんはペータアが紐育ニューヨークから送ったくつをお受け取りになったでしょうか。私はあなたが、あのために税金をお払いになるようなことはなかったであろうと思います
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
芥川龍之介あくたがわりゅうのすけ氏に聞いた、西洋の怪談が一つ、それは、紐育ニューヨーク倫敦ロンドンだったかのもっとも繁華な町の真昼間一寸の間、人通りの絶えた時、ある人が町角を何の気なしに曲ったら
怪談 (新字新仮名) / 平山蘆江(著)
十年まえ紐育ニューヨークで乗ったきりついぞ渡しというものに乗ったことがないという一人の紳士とともに、わたくしは、その桟橋のすぐ上の岸に馬鹿な顔をして立ったのである。
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
島村夫人——わたしの頸飾りはもう帰ってこないでしょうか? 先だって紐育ニューヨークからとりよせたばかりの品で、関税だけでも二万三千円もとられましたのに……(泣き声になる)
探偵戯曲 仮面の男 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
が三分とたないうちに、り切れなくなって、すぐ退却した。あとは、日本服を着て、わざと島田にった令嬢と、長らく紐育ニューヨークで商業に従事していたと云う某が引き受けた。
それから (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
胸いっぱいに勲章を飾って首に何匹ものへびを巻きつけた蛇使いの男、かごから蛇を出して瀬戸物らっぱで踊らせる馬来マライ人、蛇魅師スネーク・チャーマーの一行、手に手に土人団扇うちわをかざした紐育ニューヨークの見物客
ヤトラカン・サミ博士の椅子 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
彼は背伸びをしたら、紐育ニューヨークの自由の女神が見えはすまいかというような感じだった。
(新字新仮名) / 池谷信三郎(著)
或は伊太利イタリーのヴェニスを詩的と言い、マンチェスタアや紐育ニューヨークをプロゼックだと言う。
詩の原理 (新字新仮名) / 萩原朔太郎(著)
現に独逸ドイツ娘子軍じょうしぐんは、紐育ニューヨーク市俄古シカゴという如き北米の大都市に遠征して跳梁ちょうりょうを極めており、英国辺でも等しくこの娘子軍の累を受けているが、このわざわいは何時いつまでも外よりのみは来らず
婦人問題解決の急務 (新字新仮名) / 大隈重信(著)
あす紐育ニューヨークに連れてでますのでちょっとお礼に出ましたので。
ひのきとひなげし (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
去年の丁度秋頃の事でした、私は長い旅行に出掛ける準備で、よく紐育ニューヨーク市のペンシルバニアと云う停車場へ行き行きしました。
私の見た米国の少年 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
ホテルのスケイト・リンクで紐育ニューヨーク渡りのバヴァリイKIDSがサクセフォンをほゆらせ、酒樽型の大太鼓をころがし、それにフィドルがすが
踊る地平線:11 白い謝肉祭 (新字新仮名) / 谷譲次(著)
ワーナー博士ほか二名は、その夜飛行機で大西洋を越え、紐育ニューヨークに入った、そして博士はアンダーソン教授と会見したのである。
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
露西亜ロシヤのゴルキイが本国を亡命して紐育ニューヨークに行ったことがあるが矢張輿論のために長くその地にとどまることができなかったような事がありました。
亜米利加の思出 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そのころ川田淳平は桑湾サンフランシスコの日本人街で「三笠」という割烹店をやっていたが、紐育ニューヨークへ発つ日まで二人でその世話になった。
復活祭 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
紐育ニューヨーク北郊外ハドソン河の傍らなるマハン造船所の前に在る料理店ゴールデン・ハマーの事務員に住み込む事になりました。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
紐育ニューヨークの週刊の探偵小説雑誌には毎号この種の興味ある考え問題、たとえば暗号などを掲げて読者を考えさせ、その解答が次号に出るようになっていた。
科学的研究と探偵小説 (新字新仮名) / 小酒井不木(著)
こうはっきりと報道されていると、如何いかに不思議でも信用せざるを得ない。おまけに、この話はあらかじめ米国でも評判になり、紐育ニューヨークでも実験がなされた。
立春の卵 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
彼は愚かにも彼の妻宛に手紙を出して、紐育ニューヨークで会う約束をしたのだ。彼のような奴が、自己の大秘密を女に打明けかねまいかどうか、全く知れたものではない。
もとロスアンゼルスにいた奔逸なレムブルグは若い急進派の恋人を紐育ニューヨークのユニオン・スクエヤーで反動団体のために銃殺されてから港々に赤い花を生長さしたが
地図に出てくる男女 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
と、そのぐ後で、紐育ニューヨークから悦子にてて小包が来たのを解いて見ると、それはペータアが亜米利加アメリカ経由で帰国する途中、約束のくつを買って送って寄越したのであった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
紐育ニューヨーク倫敦ロンドンで理髪店へゆくと、こっちが日本人で世間話の種が無いせいでもあろうが、芝居を観たかと必ず訊かれる。外国では「湯屋髪結床の噂」がやはり流行するらしい。
寄席と芝居と (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
昔、紐育ニューヨークに居てボオグラム先生のスチュジオに働いていた頃、暫く同じ素人下宿に居られた鉄道省の岡野昇氏といわれる人が、私に小遣取をさせる気持で肖像を作らせてくれた。
自作肖像漫談 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
日本に帰化した米国のおんな宣教師せんきょうしで、彼女は横須賀に永住して海軍々人の間に伝道し、葛城も久しく世話になって「マザー」と呼んで居た人で、お馨さんの病死の時は折よく紐育ニューヨークに居合わせ
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
紐育ニューヨーク社交界の有名マダムより、なおもっと、日本の古都の芸者ガールの母さんの方が、ものわかりがわるく、毛唐人に対して毛ぎらいが甚だしかろうことは、いうまでもないと思ったからだ。
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
丁度、私が紐育ニューヨークの或大学寄宿舎に居た時日々顔を合わせたような、肥満した二重顎の婦人達ばかり、スカートをパッと拡げて居るのである。
或日 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
されば紐育ニューヨーク市俄古シカゴなぞよべる商業地には官庁なく従つて官吏なきを以て、宣教師の外には見すぼらしきフロックコートの人を目にすること稀なり。
洋服論 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
「……米国某新聞系大手筋のキューバ糖大買占め……紐育ニューヨークの砂糖が一躍暴騰して、砂糖節約デーの実施運動起る……」
鉄鎚 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
やっとのことで「淑女」の売子嬢をれ出してきた「紳士」の番頭が、四、五年まえに紐育ニューヨーク流行はやった made in U.S.A. の駄じゃれワイズ・クラック
それから僕が後で紐育ニューヨークへ渡ってから、やはり一流の寄席へ行ってみたら、またその男が出てきたので驚いたね。
先生を囲る話 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)