篠竹しのだけ)” の例文
これは望外のもうけ物。しかしありそうなことでもあるとおもむろにその獲物えものの勘定にとりかかろうとするところへ、裏手で篠竹しのだけのさわぐ音。
大菩薩峠:23 他生の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
うしろはもろくなった粘土質のあまり高くないがけで、その上にはずんぐりと横に伸びた古い椎の樹が七八本並び、篠竹しのだけ灌木かんぼくが繁っている。
(新字新仮名) / 山本周五郎(著)
兄はやがて自分のそばへ来てそこにあった石に腰をおろした。その石の後は篠竹しのだけが一面に生えてはるかの下まで石垣のふちを隠すように茂っていた。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
平次の指摘したのは飴色になつた篠竹しのだけに上下二ヶ所、明かに紐か何にかで、額にくゝつた跡が、印されてあるのでした。
篠竹しのだけで作った小型の「めざる」は編み方が亀甲きっこうの目になっていてとても形が可愛らしく、旅する者は誰しも一つ買わないではいられないでありましょう。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
白い柔らかい鶏の羽毛を拇指おやゆびの頭ぐらいの大きさに束ねてそれに細い篠竹しのだけの軸をつけたもので、軸の両端にちょっとした漆の輪がかいてあったような気がする。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
其處の篠竹しのだけ苅株かりくいに御足が切り破れるけれども、痛いのも忘れて泣く泣く追つておいでになりました。
むろんこういう巧者こうしゃなことは素人しろうとにはできない。職人はまた腕前うでまえをしめすべく、棟やのきはしの切りそろえに、あしとか篠竹しのだけとかの切り口を、順序よくならべて見せている。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
武士はちょっと立ちどまった。蛇はそのまま体をはなして下に落ちて篠竹しのだけの茂りに隠れて往った。
山寺の怪 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
あの頃は亡くなった父が秋草を北千住きたせんじゅの家の裏庭に作っていたので、土曜日に上条から父の所へ帰って見ると、もう二百十日が近いからと云って、篠竹しのだけを沢山買って来て
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
彼ははじめ篠竹しのだけばかりを庭のまわりに植えたが、三年経ってから篠竹の庭をこわしはじめた。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
荒々しい声と一しょに、立って、表戸と直角かねになった草壁の蔀戸しとみどをつきあげたのは、当麻語部たぎまのかたりおむなである。北側に当るらしい其外側は、まどを圧するばかり、篠竹しのだけが繁って居た。
死者の書 (新字新仮名) / 折口信夫(著)
みちから庭や座敷がすっかり見えて、篠竹しのだけの五、六本えている下に、沈丁花じんちょうげの小さいのが二、三株咲いているが、そのそばには鉢植はちうえの花ものが五つ六つだらしなく並べられてある。
少女病 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
善三は、青い篠竹しのだけを三本切って来て、何かこしらえようとしているのであった。
蜜柑 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
朽葉色くちばいろあか附きて、見るも忌わしき白木綿の婦人おんなの布を、篠竹しのだけさきに結べる旗に、(厄病神)と書きたるを、北風にあおらせ、意気揚々として真先まっさきに歩むは、三十五六の大年増おおどしま、当歳のななめに負うて
貧民倶楽部 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
篠竹しのだけの深いところは、瞭乎はっきり、想い出せたが、頂上の草原は——草原であったような、無かったような、広かったような、そうでなかったような、そして、自分のそこでしたことは、見残した夢の如く
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
「そうです、私は東京から逃げだしました」竹中はまの篠竹しのだけで作った、手製の長い箸で、鍋の中の物を動かしながら云った
おごそかな渇き (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
松本市は古い町ゆえ、色々の手仕事がされたでありましょうが、今作るもので私の眼に止まったのは竹細工でした。寒い国のこととて細い篠竹しのだけを使います。
手仕事の日本 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
篠竹しのだけおびただしく生えていて道らしい道がないので、押分け押分け案内をつとめ、ようやく小高い一角へ出ると、そこで早くも弁信のおしゃべりが展開されてしまいました。
大菩薩峠:37 恐山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
地べたにはっているつるを起こして、篠竹しのだけを三本石垣に立て掛けたのにそれをからませてやったら、それから幾日もたたないうちに、おもしろいように元気よくつるを延ばし始めた。
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
ごく細い篠竹しのだけ、紙を製するところではこうぞの小枝、養蚕ようさんのさかんな土地でくわの枝、またはささの葉で葺いている例もわたしは知っているが、そういうのは全国いっぱんということができないであろう。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
彼はその翌日、百万坪の端にある篠竹しのだけの茂みで捕えられた。「大蝶」の旦那のった猟銃の霰弾さんだんが彼のふくらはぎに当ったのだという。旦那の射撃の腕前は高く評価された。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
ここを訪ねたのは村の多くの男たちや女たちが作る竹細工を見るためであった。竹といっても寒い北国には太い男竹おだけは茂らない。山から切ってくるのは径四、五分もあろうか、細い篠竹しのだけである。
陸中雑記 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
彼はその翌日、百万坪の端にある篠竹しのだけの茂みで捕えられた。「大蝶」の旦那のった猟銃の霰弾さんだんが彼のふくらはぎに当ったのだという。旦那の射撃の腕前は高く評価された。
青べか物語 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その地方で金竹と呼んでいる細い篠竹しのだけの密生した斜面があった、幹も葉もなめらかな膏を塗ったような笹で、四十度ばかりの傾斜をびっしりと埋めている、その斜面の尽きるところが断崖になって
藪落し (新字新仮名) / 山本周五郎(著)