いじ)” の例文
花鳥も娘義太夫なんかをいじめたりしなければ、まだ容易に露顕しなかったかも知れません。巾着切りの竹蔵もつづいてげられました。
半七捕物帳:49 大阪屋花鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
一知夫婦をいじめたかにいてですね……出来るだけ秘密に……そうしてモット具体的に確かめられるだけ確かめておいて下さい。
巡査辞職 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「……まっすぐに帰るのよ。またどっかへ脱線しちゃいけないわよ。もしそうだったら、こんどうんといじめてやるから……」
獏鸚 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それは昔彼女の父が不幸のなかでどんなにひどく彼女をいじめたか、母はよくその話をするのであるが、すると私はおさない母の姿を空想しながら涙を流し
闇の書 (新字新仮名) / 梶井基次郎(著)
叔父は相変らず源三を愛しているにかかわらず、この叔父の後妻はどういうものか源三をいじめること非常なので、源三はついに甲府へげて奉公しようと
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
此の様な秘密の道の有る事は自分の外に知る者がないのだから是切り姿を隠して了えば充分秀子をいじめられると。
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
元来人間というものは自己の力量に慢じてみんな増長している。少し人間より強いものが出て来ていじめてやらなくてはこの先どこまで増長するか分らない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
女連おんなづれは同盟して、お光を法外のけものにする。男児連おとこづれは往来毎にお光をいじめる。併しお光は避け隠れして取り合わぬ。
漁師の娘 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
しろ」が居た頃、此犬はつねに善良な「白」をいじめ、「白」を誘惑して共に隣家となりの猫をみ殺し、到頭とうとう「白」を遠方えんぽうにやるべく余儀なくした、云わば白のかたきである。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
自分をいじめる好い材料を得たかのように、帰りを待ちもうけている母親の顔が、憶い出されて来た。お島はそれを避けるような、自分の落つき場所を考えて見たりした。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ある時裔一と一しょに晴雪楼詩鈔を読んでいると、真間まま手古奈てこなの事を詠じた詩があった。僕は、ふいと思い出して、「君のお母様は本当のでないそうだが、いじめはしないか」
ヰタ・セクスアリス (新字新仮名) / 森鴎外(著)
そしてその時わたしは何卒どうぞ貴方のおしになさる時、今一お側へ来たいと心に祈って死にました。それは貴方に怖い思をさせたり、貴方をいじめたりしようというのではございませぬ。
私はお前をいじめに窘め抜き、わがらせに恐わがらせ抜いた上で、おもむろにお前の命を奪おうと思っていたのだが、此間このあいだからお前達の夫婦仲を見せつけられるに及んで、お前を殺すに先だって
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
畜生、と思って、どうでも尻尾をおさえていじめてやる気になった。
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
横合から不意に出て来て玉無しにされてしまったという業腹ごうはらがまじって、半七は飽くまでも意地悪くこの武士をいじめにかかった。
半七捕物帳:30 あま酒売 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
なぞ云う学生諸君があったらウンといじめて上げる事にして、ここでは先ず腰弁諸君の御噂から申上げる。
弱虫だ弱虫だってみんなが云うけれど、おいらだって男の児だもの、いじめられてばかりいたかあ無いや。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
秀子が余の叔父に毒害を試みた事が何うも確からしいとは云えそれでも無暗むやみに秀子をいじめて懲らせようとは思わぬ、何うか穏便な取り計いで、余り窘めずに方を附けたい
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
みにくい姿忌み嫌わるゝ悲しさに、大びらに明るい世には出られず、常に人目を避けて陰地いんちにのたくり、弱きをいじめて冷たく、執念深く、笑うこともなく世を過す蛇を思えば
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
しかし芋がたまさか子猿の口に這入はいっても子猿をいじめはしない。本能は存外醜悪でない。
牛鍋 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
「まあ、……あたし実は今夜が始めてなのですのよ。あまりおいじめならないでネ。……」
深夜の市長 (新字新仮名) / 海野十三(著)
彼らの中には維新志士の腰について、多少先輩当年の苦心を知っている人もあるはず。よくは知らぬが、明治の初年に近時評論などで大分政府にいじめられた経験がある閣臣もいるはず。
謀叛論(草稿) (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
父親に告口をしたのが憎らしいと云って、口をねられたり、妹をいじめたといっては、二三尺も積っている脊戸せどの雪のなかへ小突出こづきだされて、息のつまるほどぎゅうぎゅう圧しつけられた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
「このひとをいじめると、承知しないぞ」
魔都 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
「左様でございます」と、お鉄ははなをつまらせながら答えた。「いろいろの無理を云って、わたくし共をいじめるのでございます」
半七捕物帳:37 松茸 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そこへ塩気しおけがつく、腥気なまぐさっけがつく、魚肉にく迸裂はぜて飛んで額際ひたいぎわにへばり着いているという始末、いやはや眼も当てられない可厭いやいじめようで、叔母のする事はまるで狂気きちがいだ。
雁坂越 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
ある大家では、籍まで入れて飼って居たが、交尾期こうびきにあまり家をあけるので、到頭離籍りせきして了うた。其様そんな事で彼は甲州街道の浮浪犬ふろういぬになり、可愛がられもしいじめられもした。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
財産を無くして、きちがいになる。世の中が思う様にならぬでヤケを起し、太く短く世を渡ろうとしてさまざまの不心得をする。鬼にいじめられて鬼になり他の小児こどもの積む石を崩してあるくも少くない。
地蔵尊 (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
敵に向って「何故己の妻でも何でもない女をいじめるか」
幽霊塔 (新字新仮名) / 黒岩涙香(著)
罪のないお此をそれほどにいじめるのも可哀そうだと思ったので、お花も仕舞いには却ってお絹をなだめる役にまわったのである。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
かれらは半七に意地わるくいじめられて、屋敷の名や自分たちの身分を明かすよりも、むしろ死をえらぼうと覚悟したのであった。
半七捕物帳:30 あま酒売 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
「無論さ。だが、師直もろのおが気にくわない。こっちが判官で、あいつにいじめられるかと思うといやになる」
半七捕物帳:38 人形使い (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
お久どんからんなにいじめられるであろう。それを思うと、お菊は帰るにも帰られなかった。
黄八丈の小袖 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
誰にもいじめられることは無いと存じまして、夜店で買いました小刀をふところに入れて、昨晩の夜ふけに稲荷町へそっと忍んでまいりますと、案の通りお津賀は隣りの家へはいり込んで
半七捕物帳:17 三河万歳 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)