そつ)” の例文
旧字:
(塔婆を見る。)そつと行つて返して來ようかしら。(起ちかけて又躊躇する。)あゝ、雪が降る。お父さまはさぞお寒いことであらう。
俳諧師 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
『其晩、そつと一人で大きいざるを持つて行つて、三十許り盜んで來て、僕に三つ呉れたのは、あれあ誰だつたらう、忠志君。』
漂泊 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
或る時、あまり足が痛かつたので、そつと机の下に足を投げ出して脛をさすつてゐると、折悪しくそこへ伯父が出て来て
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
鱧の皮の小包をそつと銀場の下へ押し込んで、下の便所へ行つて、電燈の栓を捻ると、パツとした光の下に、男女二人の雇人の立つてゐる影を見出した。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
これは居ちや面倒だと思つたから、家中大騒を遣つてゐるすきを見て、そつと飛出した事は飛出したけれど、別に往所ゆきどころも無いから、丹子の阿母おつかさんの処へ駈込かけこんだの。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
蘿月宗匠らげつそうしやうはいくら年をとつてもむかし気質かたぎかはらないので見て見ぬやうにそつ立止たちどまるが、大概たいがいはぞつとしない女房ばかりなので、落胆らくたんしたやうにのまゝ歩調あゆみを早める。
すみだ川 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
マリヤがそつとその人達を見ると、いづれも見知らぬ顔で、なかに三四人以前耶蘇を生み落した当時
圭子が声かけて、そつとめくつて見ると、咲子はゐないで、敷蒲団は一杯の洪水であつた。
チビの魂 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
と、おかみさんは裏口へ入らつしたときに小蔭にたたずんでそつとかう仰つた。
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
(それは漢語交かんごまじりでや六ヶ言葉ことばでしたが、説明せつめいすれば、みんなで、おほきな麻布あさふくろなかへ、最初さいしよあたまつたぶたそつれ、そのくち緊乎しつかいとしばり、それからうへすわれとふことでした)
愛ちやんの夢物語 (旧字旧仮名) / ルイス・キャロル(著)
是れは飛んだことをと、言ひ放つて老女は、そつと見上げぬ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
『其晩、そつと一人で大きいざるを持ツて行ツて、三十許り盗んで来て、僕に三つ呉れたのは、あれあ誰だツたらう、忠志君。』
漂泊 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
夫婦は安心したやうにづほつとした。不思議さうにきよろきよろしてゐる娘を再びそつと寝かせて、ふたりは抜き足をして二階を降りて来た。
それに今日あたりは、間の事で大変気が立つてゐるところだから、お前が何か言ふとかへつて善くないから、今日はそつとしていておくれ、よ、本当に私が頼むから、ねえ直道
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
笑ひながらお梶は、萎びた乳房を握つてゐる小さな手をそつと引き離してえりをかき合はした。
鱧の皮 (新字旧仮名) / 上司小剣(著)
「何と云ふ曲で御在ます。」聞き澄しながら令孃はそつと自分の耳に囁いた。自分は
新帰朝者日記 (旧字旧仮名) / 永井荷風(著)
そつとおくみにかう言つて、押入から不断の着物を出したが
桑の実 (新字旧仮名) / 鈴木三重吉(著)
ジツと聴き居たる花吉はそつと涙をぬぐひつ身をふるはして
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
(花園は墨を磨る。加賀は筆を執つて色紙に歌をかく。良因も首を出して見てゐる。このうちに奧の襖をそつと明けて、能因も顏を出してのぞく。)
能因法師 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
茫然ぼんやり立つてゐる小児でもあれば、背後うしろからそつと行つて、目隠しをしたり、唐突いきなり抱上げて喫驚びつくりさしたりして、快ささうに笑つて行く。千日紅の花でも後手に持つた、腰曲りの老媼ばばあでも来ると
刑余の叔父 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
彼女かれ逡巡ためらひつゝ、そつかたへの大和を見やりぬ
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
半七は手に取つてその下の卷をあけて見てゐたが、やがて七八丁あたりのところを繰擴げてそつとをぢさんに見せた。
半七捕物帳:01 お文の魂 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
(伴左衞門は微笑みながら、そのまゝ置いてゆけと眼で知らせる。お千代はうなづいてそつと奧に入る。)
正雪の二代目 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
さつきから物蔭でそつと立聞きをして居りましたら、お菊どのが大切のお皿を割つたとやら、砕いたとやら、そりやもうお菊殿の落度は重々、そのかぼそいくびをころりと打落されても
番町皿屋敷 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
義平 なんだか不安でございますから、わたくしもあとを追つて行つて番屋のかげでそつと樣子を窺つてをりますと、町人の身分で何で大泉の道場へ出入りをするのだといふ詮議でございます。
正雪の二代目 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
伴左衞 ゆうべそつと持つて來た。
正雪の二代目 (旧字旧仮名) / 岡本綺堂(著)