空頼そらだの)” の例文
このぶんで今年の冬を無事ぶじに経過し得ればたしかなものだと、人もそう思い自分もそう思うた。けれどもこれは空頼そらだのみであった。
廃める (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
彼が全く架空の人物であってくれればという空頼そらだのみの甲斐かいもなく、今は行方不明の平田一郎なる人物があったことを報じて来た。
陰獣 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
まかして朝暮あさゆふ仕へんと思ひし事も空頼そらだのみ仇しえにしに成ることゝ知ば年頃貧苦の中にも失ひ給はで吾儕わたしの爲に祕置ひめおかれたる用意金を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
三年ほど前に、男のくなったことが、お増の耳へ伝わった時、それがにわかに空頼そらだのめとなったのに、力を落した。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
全く詰らない骨頂さ、だがね、生きてると何か役に立てないこともあるまい。いつか何かの折があるだろう、と云う空頼そらだのみが俺たちを引っ張っているんだよ
淫売婦 (新字新仮名) / 葉山嘉樹(著)
そしてそんな思い附きでも何かの機縁になって、他日良果を結ぶことでもあればなんぞと、あてにもならぬ先の先を見越して空頼そらだのみしていることもあるのである。
おもつたのは空頼そらだのみで「あゝ、わるいな、あれが不可いけねえ。……なかへふすぶつたけむりつのはあたらしくえついたんで……」ととほりかゝりの消防夫しごとしつてとほつた——
露宿 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
自分だけの力で為し得ない事を、人にたよってしようと云うのは、おおかた空頼そらだのめになるものと見える。
青年 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
病人や、病家の人達に、此人の態度は好影響を及ぼす。新しい希望を生ぜしむる。勿論その希望は空頼そらだのめなこともあるが、こんな人達のためには、それが必要なのである。
板ばさみ (新字旧仮名) / オイゲン・チリコフ(著)
ただしまってあるのは着物だけであるけれど、それとても、今宵の間に合うのではなし、ああ、こんな時にあの七兵衛のおじさんが来てくれたならと、あてのない人を空頼そらだのみにして
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
汝が啼かんよすがの雨は竹に降る空頼そらだのめすな山ほととぎす
礼厳法師歌集 (新字旧仮名) / 与謝野礼厳(著)
したりしと空頼そらだのみに心をなぐさめ終に娘お文が孝心を立る事に兩親ふたおやとも得心なせばお文はよろこび一まづ安堵あんどはしたものゝ元より堅氣かたぎぺんの十兵衞なれば子を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
又その娘が観音様の境内を通りかかることもあろうかと悲しい空頼そらだのみから、毎日毎日、勤めの様に、十二階に昇っては、眼鏡を覗いていた訳でございます。
押絵と旅する男 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
婦人おんなただ御新姐ごしんぞ一人、それを取巻く如くにして、どやどやと急足いそぎあしで、浪打際なみうちぎわの方へ通ったが、その人数にんずじゃ、空頼そらだのめの、余所よそながら目礼どころの騒ぎかい、貴下あなた、その五人の男というのが。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やっぱりあいつは、浅草公園のどこかの隅に身をひそめていたのだ。もしかしたら別の方面に逃げ出してしまったのではないかという空頼そらだのみもあだとなった。地元の人々は警察の無能を叫び出した。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
それがはなれもはなれた、まつすぐに十四五町じふしごちやうとほい、ちやう傳通院前でんづうゐんまへあたりとおもところきこえては、なみるやうにひゞいて、さつまたしほのひくやうにえると、空頼そらだのみのむねしほさびしくあわえるとき、それを
番茶話 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)