目覚めざま)” の例文
旧字:目覺
その一寸いっすんのばしが、目覚めざまし時計の音を聞いてから、温かい蒲団ふとんの中にもぐっているように、何とも云えず物憂ものうく、こころよかった。
女妖:01 前篇 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
と同時に、一方においては、徳川幕府の圧迫を脱した江戸芸術の残りの花が、目覚めざましくも一時に二度目の春を見せた時代である。
銀座 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そして我が手に渡されたは菊一文字の短刀と陰陽秘伝の一巻のふみ……それからこの身の変わりようは今思うても目覚めざましい。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
黄昏たそがれの白きもやのなかに、せまり来る暮色をはじき返すほどの目覚めざましききぬよしある女に相違ない。中野君はぴたりと留まった。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今春の議会に海軍拡張案を提出した政府がしきりに日本を例に引いて反対党の気勢をくじいたのは目覚めざましい現象であつた。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
登り鯉とか、出世の滝登りとか、勢いのいいためしに引く名ではあるが、二代そろっての晴れわざは、新橋に名妓は多くとも、かつてなき目覚めざましいこととされた。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
穿当ほりあてました。海の中でもべに色のうろこ目覚めざましい。土を穿って出る水も、そういう場合には紫より、黄色より、青い色より、その紅色が一番見る目を驚かせます。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この時などは実に日夜にちやねむらぬほどの経営けいえいで、また石橋いしばし奔走ほんそう目覚めざましいものでした、出版の事は一切いつさい山田やまだ担任たんにんで、神田かんだ今川小路いまがはかうぢ金玉出版会社きんぎよくしゆつぱんくわいしやふのに掛合かけあひました
硯友社の沿革 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
その時彼は机上にあったこの本をして、ここに書いてある主人公は、非常に目覚めざましい思慮と、恐ろしくすさまじい思い切った行動をそなえていると告げた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
万丈のちりの中に人の家の屋根より高き処々、中空に斑々はんはんとして目覚めざましき牡丹ぼたんの花のひるがえりて見え候。
凱旋祭 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
○戦後復興するものの中でその最も目覚めざましげに見えるのは文芸書類と雑誌の刊行である。
仮寐の夢 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
ある日もアンポンタンはおまっちゃんと四ツ角で、その大人の、目覚めざましい狂奔きょうほんを見物していた。すると、帝釈様たいしゃくさまの剣に錦地にしきじ南無妙法蓮華経なむみょうほうれんげきょうのぼりをたてた出車だしの上から声をかけたものがある。
今度は先刻さっきのように目覚めざましい食方もしなかった代りに、ハンケチを使って、中途で息を入れると云う不体裁もなく、蒸籠せいろ二つを安々とやってのけたのは結構だった。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
修善寺しゅぜんじの方へ蜜月みつづきの旅と答へた——最愛なる新婚の、ポネヒル姫の第一発は、あだ田鴫たしぎ山鳩やまばと如きを打たず、願はくは目覚めざましき獲物をひっさげて、土産みやげにしようと思つたので。
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
此等これらの書籍はいづれも水野越州みづのえつしう以来久しく圧迫されてゐた江戸芸術の花が、維新の革命後、如何に目覚めざましく返咲かへりざきしたかを示すものである。芝居と音曲おんぎよくと花柳界とは江戸芸術の生命である。
虫干 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
貴方が余り目覚めざましい人気ゆゑに、恥入るか、ものねたみをして、前芸まえげい一寸ちょっとつた。
伯爵の釵 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
かつ膝を崩したのは目覚めざましい武者振むしゃぶりである。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ばらしいへッついを二ツならべて一斗飯いっとめしけそうな目覚めざましいかまかかった古家ふるいえで。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ばらしいへツつひを二ツならべて一斗飯とうめしけさうな目覚めざましいかまかゝつた古家ふるいへで。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)