白地しろじ)” の例文
文士という肩書の無い白地しろじ尋常ただの人間に戻り、ああ、すまなかった、という一念になり、我を忘れ、世間を忘れて、私は……私は遂に泣いた……
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
花色かしょくは紫のものが普通品だが、また栽培品にはまれに白花のもの、白地しろじ紫斑しはんのものもある。きわめてまれにがく、花弁が六へんになった異品がある。
植物知識 (新字新仮名) / 牧野富太郎(著)
学校教育を受けつつある三四郎は、こんな男を見るときっと教師にしてしまう。男は白地しろじかすりの下に、鄭重ていちょうに白い襦袢じゅばんを重ねて、紺足袋こんたびをはいていた。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
八時過ぎには何も片づけてしまい九時前には湯を済まして白地しろじ浴衣ゆかたに着かえ団扇うちわを持って置座に出たところやはりどことなくなまめかしく年ごろの娘なり。
置土産 (新字新仮名) / 国木田独歩(著)
御召物おめしものは、これはまたわたくしどもの服装ふくそうとはよほどちがいまして、上衣うわぎはややひろ筒袖つつそでで、色合いろあいはむらさきがかってりました、下衣したぎ白地しろじで、上衣うわぎより二三ずんした
しかし、だんだん白地しろじ浴衣ゆかたひとすくなくなって、みんな人々ひとびとくろっぽい着物きものるようになってから、一ぽうでは、やっとしろかげさがすのに都合つごうがよくなりました。
白い影 (新字新仮名) / 小川未明(著)
彼のすぐ横には白ペンキぬりの信号柱が、白地しろじに黒線の這入はいった横木を傾けて、下り列車が近付いている事を暗示していたが、しかし人影らしいものはどこにも見当らなかった。
木魂 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
なにか、自分は世の中の一切すべてのものに、現在いまく、悄然しょんぼり夜露よつゆおもッくるしい、白地しろじ浴衣ゆかたの、しおたれた、細い姿で、こうべを垂れて、唯一人、由井ヶ浜へ通ずる砂道を辿たどることを、られてはならぬ
星あかり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
寝衣ねまきか何か、あわせ白地しろじ浴衣ゆかたかさねたのを着て、しごきをグルグル巻にし、上に不断の羽織をはおっている秩序しどけない姿もなまめかしくて、此人には調和うつりい。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
きょうは白地しろじ浴衣ゆかたをやめて、背広を着ている。しかしけっしてりっぱなものじゃない。光線の圧力の野々宮君より白シャツだけがましなくらいなものである。
三四郎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
白がさねして、薄紅梅うすこうばいに銀のさやがたきぬ白地しろじ金襴きんらんの帯。
多神教 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
圭さんは、無雑作むぞうさ白地しろじ浴衣ゆかた片袖かたそでで、頭から顔をで廻す。碌さんは腰から、ハンケチを出す。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「まだ馬のくつを打ってる。何だか寒いね、君」と圭さんは白い浴衣ゆかたの下で堅くなる。碌さんも同じく白地しろじ単衣ひとええりをかき合せて、だらしのない膝頭ひざがしら行儀ぎょうぎよくそろえる。やがて圭さんが云う。
二百十日 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)