生簀いけす)” の例文
歸つてから兄は水汲み、妻は七輪、父親はまた手網を持つて岸近く浮けてある生簀いけすに釣り溜めておいた魚をすくひに泳ぎ出すのです。
樹木とその葉:33 海辺八月 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
つい今し方まで、生簀いけすのなかで生きていたなまずが、マナイタの上でぶった切られて、小さく刻まれて、その火の上にかけられている。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
お節が真者ほんものか替玉か判らねえ以上は、野郎をいくら責めたところで埒は明くめえ。まさか草鞋わらじもはくめえから、当分は生簀いけすに入れて置くのだ。
半七捕物帳:49 大阪屋花鳥 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
はじめつないだ屋形船の中で重詰をあけ、船宿から三人ほど来て酒を温ためたり、生簀いけすから揚げた魚を作って出したり、にぎやかに小酒宴をひらいた。
めおと蝶 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
凸凹でこぼこ凸凹凸凹と、かさなって敷くいわを削り廻しに、漁師が、天然の生簀いけす生船いけぶねがまえにして、さかなを貯えて置くでしゅが、たいかれいも、梅雨じけで見えんでしゅ。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
そしてかれらの猟場または魚釣り場は英国の貴族たちの、専用猟区や生簀いけすなどのように局限されたものではなく、野蛮人のそれ以上に境界を越えたものであった。
東京居回りの川筋に鰻が絶えて近県の輸入ものが千住せんじゅへどしどし、それでも明治の中頃までは大川に生簀いけすがあって、沼育ちのあくも抜け、江戸前でとおっていたが
明治世相百話 (新字新仮名) / 山本笑月(著)
水族館のように、ガラスのケースの中に塩水を満たし、それがロブスターの生簀いけすというわけです。
アメリカの牛豚 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
「まだ着かないでしょう、ほら、あの生簀いけすの向うに大きな帆が見える、あれがそれなんでしょう」
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
生簀いけすの鯉——うまいことを言うぞ。だからさ、おれも、人が食やがるから、骨を立ててやるんだ。
ベラという魚は五色のうろこで身をかざっているような美しい小魚だが、これはまずい。しかし、太刀魚のえさには欠くことができない。そのベラを生簀いけすにいれて出かけるのだ。
瀬戸内の小魚たち (新字新仮名) / 壺井栄(著)
三津の生簀いけすで居士と碧梧桐君と三人で飯を食うた。その時居士は鉢の水に浮かせてあった興居ごご島の桃のむいたのをつまみ出しては食い食いした。その帰りであった。空には月があった。
子規居士と余 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
つまらなそうな様子で、上野黒門くろもんよりいけはたのほうへぶらりぶらり歩いて、しんちゅう屋の市右衛門いちえもんとて当時有名な金魚屋の店先にふと足をとどめ、中庭をのぞけば綺麗きれい生簀いけすが整然と七
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
七、雑魚ざこ魚交ととまじり、並びに生簀いけすの悶着のこと。翌日の出発は午前七時。
八五郎はもう、山脇玄内を生簀いけすの魚のように考えている様子です。
群れつつを生簀いけす鰯子しこの片寄りにそろひさ走りめぐりやまぬかも
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
深川の杉風の鯉の生簀いけすの番小屋に入ったとも思える。
芭蕉について (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
行者の奴らをつかまえるのは何日いつでも出来る。あいつ等はまあ当分は生簀いけすにして置いて、ほかから来る奴らに気をつけろ
半七捕物帳:26 女行者 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そのえんなのが、わらわを従えた風で、やっこたたずむ。……汀に寄って……流木ながれぎめいた板が一枚、ぶくぶくと浮いて、苔塗こけまみれに生簀いけすふたのように見えるのがあった。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この大型の發動機船の船底は其儘一つの生簀いけすになつてゐた。そして其處に集めも集めたり、無數の鯛が折り重なつて泳いでゐるのである。I——君は機船の人に問うた。
樹木とその葉:03 島三題 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
生簀いけすこい——うまいことを言うぞ。だから、俺も、人が食やがったら骨を立ててやるんだ。
博物誌 (新字新仮名) / ジュール・ルナール(著)
東京築地の魚河岸における朝の生簀いけすには、その偉容、実に横綱玉錦といった風な面構えをもって、水底に悠然たる落着きを見せている。美味さ加減は大きさで四百匁くらいが上乗。
洗いづくりの美味さ (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
持てとも言わず、角樽を柳の枝に預けると、小褄こづまをぐい、と取ったしまった足の白いこと。——姿も婀娜あだに、ながれへ張出しの板を踏むと、大川の水に箱造りの生簀いけすがある。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
暑い日のことであるから、汗をふいて先ず一休みして、養父の亭主がそのうなぎを生簀いけすへ移し入れようとすると、そのなかに吃驚びっくりするほどの大うなぎが二匹まじっているのを発見した。
魚妖 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
生きていても、焼いてみるとはらわたなしで、トンネル風に空洞を作っている。はらわたというのは、ほとんど脂でできていると見え、三日も生簀いけすにおれば、ほとんど脂は抜けてしまう。
鮎の名所 (新字新仮名) / 北大路魯山人(著)
庭さきの水際の生簀いけすに一人の男が出て行つた。私のために何か料理するものらしい。そして當然鯉か鮒が其處から掬ひ上げられるものとのみ思ふて何氣なく眺めてゐた私は少なからず驚いた。
梅雨紀行 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
浅き浅葱あさぎの浪を分け、おどろおどろ海草の乱るるあたりは、黒き瀬を抜けても過ぎたが、首きり沈んだり、またぶくりと浮いたり、井桁いげたに組んだ棒の中に、生簀いけすがあちこち、三々五々。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
暑い日のことでもあるから、汗をふいて先づ一と休みして、養父の亭主がそのうなぎを生簀いけすへ移し入れようとすると、そのなかに吃驚びつくりするほどの大うなぎが二匹まじつてゐるのを発見した。
魚妖 (新字旧仮名) / 岡本綺堂(著)
江の浦は遠州灘駿河灣伊豆七島あたりへ出かくる鰹船の餌料を求めに寄るところで、小松の茂つた崎の蔭の深みには幾箇所となく大きな自然の生簀いけすが作られ、其處に無數のいわしが飼はれて居る。
雑用ぞうよう宿のついえに、不機嫌な旦那に、按摩あんまをさせられたり、あおがせられたり。濁った生簀いけすの、茶色の蚊帳でまれて寝たが、もう一度、うまれた家の影が見たさに、忍んでここまで来たのだ、と言います。
河伯令嬢 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
半七は生簀いけすの魚を監視しているような心持でその晩を明かした。
半七捕物帳:22 筆屋の娘 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
生簀いけすを見詰め、かぶりって
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)