生来せいらい)” の例文
旧字:生來
思うに道阿弥は多少とも幇間的ほうかんてき性質の男であって、生来せいらい幾分か公と同様の傾向があったか、或は公の歓心を買わんがために殊更にそう装ったか
就中なかんずく儂の、最も感情を惹起じゃっきせしは、新聞、集会、言論の条例を設け、天賦てんぷの三大自由権を剥奪はくだつし、あまつさのうらの生来せいらいかつて聞かざる諸税を課せし事なり。
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
こんなのが、裏手にはまだ六七頭もいるんだと思うと、生来せいらい蛇嫌いな帆村はもうすっかり憂鬱ゆううつになってしまった。
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
私は生来せいらいそうした手細工に興味を持っておりますので、数日の間コツコツとそればかりを丹精たんせいして、結局申し分のない携帯覗き眼鏡めがねを作り上げたことでした。
湖畔亭事件 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
けれど、主人一平氏は家庭において、平常、大方おおかた無口で、沈鬱ちんうつな顔をして居ます。この沈鬱は氏が生来せいらい持つ現世に対する虚無思想からだ、と氏はいつも申します。
保吉はたちまち熱心にいかに売文に糊口ここうすることの困難であるかをべんじ出した。弁じ出したばかりではない。彼の生来せいらいの詩的情熱は見る見るまたそれを誇張し出した。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
父は生来せいらい交際好こうさいずきの上に、職業上の必要から、だいぶ手広く諸方へ出入していた。おおやけつとめを退いた今日こんにちでもその惰性だか影響だかで、知合間しりあいかん往来おうらいは絶える間もなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
小松原舞二郎、生来せいらいの多病。それで剣道は自ら廃し、好める学問の道にむかい、林家りんけの弟子として錚々そうそうたるもの。広太郎と同年で二十三歳、それでいてすでに代講をする。
剣侠受難 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
生来せいらい貴方あなた怠惰者なまけもので、厳格げんかく人間にんげん、それゆえ貴方あなたんでも自分じぶん面倒めんどうでないよう、はたらかなくともむようとばかり心掛こころがけている、事業じぎょう代診だいしんや、そののやくざものにまか
六号室 (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
ず第一に私の悪い事を申せば、生来せいらい酒をたしなむと云うのが一大欠点、成長したのちにはみずからその悪い事をしっても、悪習すでせいを成してみずから禁ずることの出来なかったと云うことも
福翁自伝:02 福翁自伝 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
今ここにかくのごとき愚かな子供談こどもばなしをし、しかも自己のはじさらすのは、この経験がながく僕の頭に留まり、四十年後の今日もこれを追懐すれば、自分が生来せいらい短慮なりしことを明らかにすると同時に
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
牢の入口なるかんぬきの取りはずさるるひびきいとどあやしうすさまじさは、さすがに覚悟せる妾をして身の毛の逆竪よだつまでに怖れしめ、生来せいらい心臓の力弱き妾はたちま心悸しんき昂進こうしんを支え得ず、鼓動乱れて
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
壮一君は生来せいらいの冒険児で、中学校を卒業すると、学友とふたりで、南洋の新天地に渡航し、何か壮快な事業をおこしたいと願ったのですが、父の壮太郎氏は、がんとしてそれをゆるさなかったので
怪人二十面相 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)