牛車うしぐるま)” の例文
遠くの橋を牛車うしぐるまでも通るように、かたんかたんと、三崎座の昼芝居の、つけを打つのが合間に聞え、はやしの音がシャラシャラと路地裏の大溝おおどぶへ響く。……
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
五分ばかりたった後、僕等はもうO君と一しょに砂の深いみちを歩いて行った。路の左は砂原だった。そこに牛車うしぐるまわだちが二すじ、黒ぐろと斜めに通っていた。
蜃気楼 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
するとこうから、身分みぶんのあるらしい様子ようすをした女の人が、牛車うしぐるまって長谷寺はせでらへおまいりにやってました。
一本のわら (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
まず日本の昔に流行はやった牛車うしぐるまの小ぢんまりしたものと思えば差支さしつかえないが、見たところは牛車よりもかえってである。その代り乗ってる人間は苦しいそうだ。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そばには牛車うしぐるまが幾台となく置かれ、幾箇かの檻も置かれてあり、その中には猿や山猫や狐が、これも何んの不安もなさそうに、寝たり起きたりしてノンビリとしてい、くびきから放された牛や馬は
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
どこにももらい手のない篠竹はとなりの寺の土手に植え、そして後の分は空地なぞにてることにした。牛車うしぐるまはこんだものをもったいないにはもったいないが、取り棄てるより外に用いようはなかった。
生涯の垣根 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
牛車うしぐるまゆるく行きつつ南なる国のみどりに日は落ちむとす
つゆじも (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
一台の牛車うしぐるまがすぐうしろに来てゐたからであつた。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)
ぬりながえ牛車うしぐるま、ゆるかにすべる御生みあれ
白羊宮 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫薄田淳介(著)
大原は近し濃紅葉こもみじ牛車うしぐるま
六百五十句 (新字新仮名) / 高浜虚子(著)
白姥しろうば焼茄子やきなすび牛車うしぐるまの天女、湯宿ゆやどの月、山路やまじ利鎌とがま、賊の住家すみか戸室口とむろぐちわかれを繰返して語りつつ、やがて一巡した時、花籠は美しく満たされたのである。
薬草取 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
するとあるばんのことでした。義家よしいえはたった一人ひとり宗任むねとうをおともにつれて、ある人のいえをたずねにって、よるおそくかえってました。宗任むねとう牛車うしぐるまいながら、今夜こんやこそ義家よしいえころしてやろうとおもいました。
八幡太郎 (新字新仮名) / 楠山正雄(著)
蒋生しやうせいニタリとなり、つかずはなれず尾之これをびす、とある工合ぐあひが、ことで、たぼつたは牛車うしぐるま相違さうゐない。うして蜻蛉とんぼられるやうでも、馬車ばしやだとうは呼吸いきつゞかぬ。
麦搗 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
高い処に照々きらきらして間数まかず十ばかりもござりますのを、牛車うしぐるまに積んで来て、背後うしろおおきな森をひかえて、黒塗くろぬりの門も立木の奥深う、巨寺おおでらのようにお建てなされて、東京の御修業さきから
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)