無器用ぶきよう)” の例文
だが、気弱なほおが月のようにはにかんでいる。無器用ぶきよう小供こどものように卒直に歩く——実は長い洋行後駒下駄こまげたをまだ穿れて居ないのだ。
かの女の朝 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
与八は、やっとのことで縁側へ腰をかけ、無器用ぶきような手つきをして、恐る恐る茶碗を取り上げておしいただきます。
勘次かんじしもしろ自分じぶんには往來わうらいると無器用ぶきようくぬぎはやしかれくべきかたしたがつてみち沿うてつらなつてる。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
召物めしものれますとふを、いゝさまづさせててくれとて氷嚢こほりぶくろくちひらいてみづしぼ手振てぶりの無器用ぶきようさ、ゆきすこしはおわかりか、兄樣にいさんつむりひやしてくださるのですよとて
うつせみ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
立っては歩かれないくらい、勾配こうばいのきゅうな青銅瓦せいどうがわらの上をのしのしと無器用ぶきようにはいあがって
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
なかでは、イノシシがさかんにあばれまわりましたが、からだがおもすぎるうえに、無器用ぶきようなものですから、まどからとびだすこともできず、とうとう生けどりにされてしまいました。
性格から言っても、竜一は単純で、無器用ぶきようで、よくおだてに乗る子であるのに、由夫は、ませた、小智恵のきく子で、どうかすると、遠まわしに竜一の親たちの陰口をきいたりする。
次郎物語:01 第一部 (新字新仮名) / 下村湖人(著)
「大丈夫だよ。手さぐりでも」自分はかまわずに電燈をつけた。細帯一つになった母は無器用ぶきよう金槌かなづちを使っていた。その姿は何だか家庭に見るには、余りにみすぼらしい気のするものだった。
子供の病気:一游亭に (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
無器用ぶきようなお前樣まへさま此子このこいぢくるわけにもくまじ、おかへりにるまでわたしちゝげませうと、ありさまをかねて、となりつまいてくに、何分なにぶんたのまをしますとひながら
われから (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)