浮標ブイ)” の例文
繋船けいせんが、三番浮標ブイじゃけ、きっと、あいつ、ブイのところに、伝馬を漕ぎだして待っとるよ。それで、こっちの鼻を明かそうと考えとる。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
艇は発足点の赤い浮標ブイに着いた。水路コースを見渡すと風は全く凪いでいるのではなかった。それは絶えず北東から吹いて来て艇首を左へ曲げた。
競漕 (新字新仮名) / 久米正雄(著)
其處此處そここゝには救助すくひもとむるこゑたえ/″\にきこゆるのみ、わたくしさひはひ浮標ブイうしなはで、日出雄少年ひでをせうねんをば右手めてにシカといだいてつた。
赤い浮標ブイのようにフラフラしているのに、片っ方の運転手は弗箱ドルばこみたいに重々しくて真四角い恰好をしているから、見かけだけでも頑固らしい。
ココナットの実 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「そうです。人間にちがいありません。しかも少年です。最新式の浮標ブイにはいっている。クイーン・メリー号の名までハッキリついているやつです」
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
浮標ブイの代りの仏像を抱いているにしても、羽織袴の花聟姿では、いかにそれはペンペラの夏物であったにしても、あまり泳ぎいい恰好ではありません。
海には無数の船舶が、態々さまざまの姿でもやっている。穏かな波は戯れるようにその船腹をピチャピチャめ、浮標ブイ短艇ボート荷足舟にたりなどをさも軽々と浮かべている。
死の航海 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
十月のはじめで、港内に浮んでゐる赤い浮標ブイに日がかんかん照りつけるのを見ると、まだ、夏らしい気がする時分なので、これはさう大して苦にもならなかつたやうです。
(新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
それから上手𢌞しをして次の浮標ブイの方へ船を走らせていると、その鎖ががちゃがちゃ鳴るのが聞える、って訳さ。まあ、それが己たちのゆきつくところだ、己たちみんなのな。
人をやとうかそうでなかったら救助の浮標ブイうかべてもらいたいと話しているというのです。
イギリス海岸 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
三人の口中に浮標ブイ用のコルクの断片や帆布の切れが噛み砕かれてあった。餓死の苦しみに際して手当り次第に口に入れたに相違ない。結婚指輪が二つ、ボウトの底に転がっていた。
運命のSOS (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
……渚に引き上げられた破船の船尾ともや潮で錆びた赤い浮標ブイの上を、たくさんの鴎が淋しそうに飛び廻っています。……鴎にも故郷がない。……海も故郷ではない、おかも故郷ではない。
キャラコさん:05 鴎 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
丘だ、煙突だ、レールだ、そして防波堤だ、浮標ブイだ。
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
しぐれてる浮標ブイが赤いな
行乞記:01 (一) (新字旧仮名) / 種田山頭火(著)
浮標ブイめの自由な展望よ
港に沈んだ鉄片の希望 (新字旧仮名) / 仲村渠(著)
弦月丸の最後——ひ、ひ、卑怯者め——日本人の子——二つの浮標ブイ——春枝夫人の行衞——あら、黒い物が!
一方に手を分けた五、六人の者が途中で浮標ブイを付けて海に投げ込んで置いた自分自分の荷物を拾い集めて来て、それぞれに材料を出し合って一つの触発水雷を作ります。
女坑主 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
「三千夫君、きみのほかに、浮標ブイをつけて海中に飛びこもうとしていた者はありませんでしたか」
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
そのうえ、当日の、三番浮標ブイを中心とする舞台装置、大道具、小道具の仕掛けが、派手すぎた。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
人を雇ふかさうでなかったら救助の浮標ブイを浮べてもらひたいと話してゐるといふのです。
イギリス海岸 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
羊羹色ながら、羽織もはかまも着けたままですが、幸いに綾麿は泳ぎを心得て居りました。その上運の良いことに、抱いた仏像は枯れ切った檜で、浮標ブイよりも有効に、綾麿の身体からだを水上に支えてくれます。
気がついてみると、かれは浮標ブイをからだにゆわきつけて、海上をただよっていたのである。
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
三崎の若いも出て来て、浮標ブイにかかるのを待って、段取りしようとした。そしたら、オヤジ、三菱の甲板デッキ番が——これは、共働組でやることになっとる。……というんですよ。
花と龍 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
最早もはや最後さいごと、わたくしはなつて四邊あたりながめたが、此時このときふととまつたのは、左舷さげんほう取亂とりみだされてあつた二三浮標ブイ端艇たんていいそいだ人々ひと/″\は、かゝるものにはまなこめなかつたのであらう。
遠くからことばの浮標ブイをなげつけた
『春と修羅』 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
「……そこでポオ助教授から、見おぼえのある『宇宙の女王クィーン』号の空間浮標ブイがギンネコ号の隅にあったことについて、くわしく話をしてもらおう。ポオ君、おちついて話したまえ」
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
濁って青い信号燈シグナル浮標ブイ
春と修羅 第二集 (新字旧仮名) / 宮沢賢治(著)
「遂に、テームズ河口に繋留してある浮標ブイDの十一号までは、つきとめたよ」
地球発狂事件 (新字新仮名) / 海野十三丘丘十郎(著)
それは発光式の空間浮標ブイです。はじめその上にカンバスぬのがかけてあって見えなかったのですが、ぼくたちが帰るとき、テイイ事務長の身体がカンバスにさわって、その布が動いて横にずれた。
怪星ガン (新字新仮名) / 海野十三(著)
河口かこうには、たしかに防潜網ぼうせんもうを吊っているらしい浮標ブイが、おびただしく浮び、河口を出ていく数隻すうせき商船群しょうせんぐんの前には、赤い旗をたてた水先案内みずさきあんないらしい船が見えるが、これは機雷原きらいげんけていくためであろう。
英本土上陸戦の前夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)